euphoria


14


“一緒に帰ろうや”
十数分前、後ろから走って来た幼馴染みの隆平は、いつものようにニコニコと笑っていた。はずだった。

なのに私の話に『うん』じゃなくて『...ふん』みたいな気のない返事が返ってくるし、いつもとは比べ物にならないくらい大人しい。

隣を歩く隆平を盗み見ると、時たまタイミングを伺うみたいに口を開き掛けて閉じる、を繰り返している。

「何?」
『...え!な、何?』

びくりと肩を揺らした隆平がちらりと私を見る。けれどすぐに目が泳いで私から離れて行く。
...なんなの、これ。...怪しい。

「何か言いたそう」

驚いたように目を丸くして口元に笑みを浮かべるけれど、全然笑えてない。引き攣りすぎ。

『...あー...ん、せやな...』

落ち着きなく首の辺りを手で触りながら首を傾げ、隆平らしくない笑顔で笑うから居心地が悪くて仕方ない。

「何」
『いや、ええよ...』

...なんで言わないの。私に言いにくいことなの?
...まさか、彼女出来た...とか、言っちゃう...?

急にドクリと心臓が跳ねた。体が熱くなって、じとりと汗が滲むような感覚に耐え切れず、拳を固く握り締める。

「...何、言ってよ」
『...あー、...うん...あは、』
「なんなの、もう...」

曖昧に笑う隆平のせいで胸が苦しくて、はっきりしないその態度に苛立ちが募る。

視線を感じて隆平に目を向ければ、隆平が眉尻を下げて私を見ていた。機嫌が悪い時の私に向ける困ったようなそれとは少し違う、今まで見たことのないような顔をしていたから思わず目を逸らした。

『...じゃあ、言う...』

...なんでそんなに情けない顔するの。彼女が出来たなら、もっと幸せそうな顔、したらいいじゃない。

急かしたのは自分なのに聞くのが怖い。でももう、聞くしかないのだから。

「...ん」

私が頷いたとほぼ同時に隆平が足を止めた。開いた口を一度閉じて、私を見ながらまた口を開いた隆平を、息を飲んで見つめる。

『...あいつと、付き合わんとってよ』

隆平を見つめたまま動けなくなった。私の言葉を待っているであろう隆平に、何から伝えるべきかがわからなくて言葉が出て来ない。

弁解や訂正の言葉より先に思わず笑みが溢れた私を、隆平がただ不思議そうに見つめていた。


End.

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