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目を丸くした章大がキョトンとして私を見た。じっと私で止まったままの章大の視線に、ドキドキしてしまっているのは絶対に内緒。
『...好きな奴、居るんや?』
そんなにストレートに聞かれると思っていなかったから思わず目を逸らす。
聞きたいのは私の方だ。章大に好きな子がいるなんて、初めて聞いた。
“お前はアレやな、男に興味無さそ”
ほんの一分程前、好きな子がいるなんてさらりと爆弾を投下した上に、そんな無神経なことを言って笑うから、動揺を隠して睨むように視線を向けた。
“...私だって、いる...”
『なぁ、』
章大の声にはっとしてちらりと視線を向けた。頬杖を付いて口元に笑みを浮かべながら私を見ている章大は、何だか面白がっているようにも見えてビクビクしてしまう。...探られたりしたら、困るのに。
『俺知ってる奴ぅ?』
「...誰でもいいでしょ、」
『あは、完全に知ってる奴やん』
どんな風に返すかなんて考えている余裕はない。駆け引きなんてしたこともない。上手い躱し方なんて、何一つ知らない。
勢いで告白出来る程酔ってはいないし、笑って冗談!と終われそうな程章大も酔っているわけではない。
「...章大に関係ない、」
結局出て来た言葉は可愛くない一言。
だってしょうがないじゃない。この気持ちがバレるよりはマシ。
『あるやろぉ』
それでも尚、引き下がらない章大にますます動揺して鼓動が早くなる。
グラスのビールを煽ってからメニューを手にして、ドリンクを選んでいる章大。言葉のわりには然程興味が無さそうに感じて、何だか胸が痛い。矛盾した感情に自分でも困惑する。
「...ない」
『あるし』
「...ないってば、」
章大が手にしていたメニューをバン、とテーブルに音を立てて置いたからドキリとした。俯き気味の角度から目だけを動かして私を見た章大が、口元に笑みを浮かべる。
...多分、数秒。章大の目が私の動きを止めた。暫くして、ふっ、と笑った章大がまた頬杖を付いて少し私との距離を詰める。
『...なぁ、教えて』
そう言って私から視線が逸らされ、俯いた章大が鼻を触りながら小さく啜った。
それからまた私に戻って来た目にじっ
と見つめられ、章大が声のトーンを落として言った。
『それが俺ちゃうと困んねん』
真っ直ぐな目が私を伺うような目に変わって見つめる。言葉を失った私を急かすように黙ったまま視線を逸らさないその目に胸が高鳴る。 顔に熱が集中して熱い。
『...あ、その前に』
やっと私から視線が逸れたから一度深呼吸。伝えたい二文字を頭に浮かべて自分の手を固く握り締めると、章大の手が私の髪を撫でたから驚いた。
『“章大”以外、言われへんようにしとこ』
頭の手に引き寄せられて、弧を描いた章大の唇が私のそれに触れた。
ますます顔が火照る。章大がそれを見て笑う。首を傾けて私の顔を覗き込む章大は、もうきっと、私の気持ちに気付いたはず。
『...俺、やんな?』
End.
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