02
『…なぁ』
お邪魔します...と言ったきり、ずっと無言だった亮の前に缶ビールを置いた途端に言われた。
「な、何!」
思わず上擦った声が出て焦る。下から覗き込むように私を見ているらしい亮に、視線を向けることは出来なかった。
『…“家来る?”言うたの自分やんな?』
...確かに言った。終電ギリギリやーって言ってたし、私も酔ってたし、冗談半分で言っただけ。まさか『...ええの?』って返事が返って来るとは思ってなかった。だから一気に酔いが覚めた。
緊張もあるけれど、勿論多少の期待もある。変に意識してしまってどうしたらいいかわからない。だからもう1回酔えるようにビールを手に戻って来たとこだったのに。
「…だったら何、」
『…そんな警戒されるとこっちが気ぃ遣うんやけど…』
...やっぱり気付かれてた。警戒しているわけじゃない。意識してるだけ。どちらにしても異変に気付かれてしまったこと自体恥ずかしいのだけれど。
「…警戒なんかしてない、」
『してへんの?…それで?』
驚いている、というよりは、わざと驚いたフリをしてバカにしている感じ。
...そういうとこ、いつもと同じ亮すぎて、私だけ意識しているみたいで悔しい。
「…してない、」
『全っ然目ぇ合わせへんやん』
「そんなことない…」
ある。ほら、今だって目、見られない。
『こっち見てみ』
すると亮が私の手首を掴んで引くから、私を覗き込んだ亮に思わず視線を向けた。
一瞬面白いものでも見るように含み笑いした亮からすぐに目を逸らす。
『…なんやねん、』
拗ねたように小さく吐き出された声にさえドキドキしてしまう。
『俺がお前に手ぇ出す思てんの?』
...そんなにはっきり言うことないじゃない。期待していた自分を恨む。期待さえしなければ、こんなに胸が痛まずに済んだのに。
「…思ってない」
精一杯の強がりは、思いの外小さな声になってしまったから恥ずかしい。
『…わかった。先言うたら安心すんねやろ?』
わかったってば。もう今ので充分。これ以上言わないで。
私の方に体を向けた亮をちらりと見れば真っ直ぐに私を見ていたから、耐え切れず顔を逸らして言った。
「だから、」
『…しよ』
「え?」
思わずか細い声で聞き返した。
しよ、って言った?...何を?何をって、それはひとつしか思い当たらないけれど。
...そんなはずない。だって今の亮の顔に、からかうような笑みはないんだから。
『最初からわかってたやろ』
...そんなはず、ない。だって、亮は...。
期待したくなるようなセリフを受けて、睨むように亮に視線を向けた。亮はただただ、私を真っ直ぐ見ていた。
「...セックス、しよ」
睨んでいたはずの視線は泳いで、胸の鼓動が早く大きく騒ぎ出す。
頭に亮の手が触れたからびくりとして思わず亮を見た。頭を引き寄せるようにして優しく唇が触れ、離れてまた視線が絡めば、優しい笑顔の亮に見つめられてゆっくりと床に倒された。
End.
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