euphoria


03


「…ちょっと、」

なんとなく背中に感じていた体温が、突然範囲を広げたから思わず忠義に声を掛けた。

『なにぃ?』

眠たそうな間延びした返事が返ってきたから、ドキドキしているのは自分だけのような気がして悔しい。
何より背中にくっついて来られたら、早い鼓動が伝わってしまいそう。

「くっついて来ないで、」

...出来るだけ素っ気なく忠義に言った。こんなに緊張しているなんて、気付かれるわけにはいかない。もし気付かれてしまったら、ソフレなんていう関係は呆気なく終わってしまうに違いない。

『ええやん別にー』

背中にくっついていたのは腕だったはず。私の後ろで忠義がモゾモゾと動いたと思ったら、背中全体にぴったりと体温が広がったから更にドキリとする。
...今のこの熱は、忠義の背中なのか、...それとも胸か。

「...ちょっと、」

動揺が押し出されて、抗議にしては弱々しい声が出てしまった。

『俺狭いもん。落っこちるもん』

忠義の声が急に耳元で聞こえた。
...ってことは、忠義は今こっちを向いていて...。

突然忠義の頭が後ろから私の項辺りに擦り付けられたから呼吸が震えた。自分の手を強く握り締めながら、震える唇を噛み締める。

「…忠義、」

すると後ろから私のお腹の前に忠義の腕が回って包み込まれたから体が強ばる。
...信じられない、...抱き締められるなんて...信じられない。

『狭いから抱っこ、しとこな』

今度は私の首筋に顔を埋めて、そこに唇を触れさせながら忠義が呟く。
より強く引き寄せるように包まれて忠義の胸に密着するから、呼吸をするのも躊躇ってしまう。

「…もー、」

精一杯、呆れたような声を発した。上手く騙せているだろうか。緊張が伝わっていないだろうか。
私の早過ぎる胸の鼓動、伝わっていなければいい。やっと手に入れたソフレというこのポジションを、どうか続けさせて。
強ばる体が震えてしまわないように、目を固く閉じて耐える。

『...なんやねん』

ボソッと呟かれたその言葉に目を開けた。

『…ちょっとくらいドキドキしてくれたらええのに…』

続きを促すより先に聞こえた不機嫌そうな忠義の声に息を呑んだ。
更に擦り寄るようにきつくなった腕。一瞬動きが止まったと思ったら、少し体を起こした忠義が上から私を覗き込む。

『...あは、作戦成功』

目が合った途端にむふふと笑ってまた私の後ろに戻り、堪え切れない含み笑いから密かに声を漏らす忠義。
...当たり前じゃない。こんなことされて赤くならない方がおかしい。

腕が緩んで私の肩を掴みベッドに押し付けると、忠義が優しい笑みを浮かべて私を見ていた。大きな手が髪を撫でるのを合図に忠義の唇が降りて来たから、ゆっくりと目を閉じて恋人になるその瞬間を待った。


End.

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