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『昨日な、DVD見に行ったらアレ、...お前が見たがってたあの映画、奇跡的にあってな、借りてもうた!』
...章ちゃん、なーんか変。
さっきからなんかそわそわしちゃってさ。
「...えーいいなぁ。私も早く借りたい」
10分程前、飲み会の帰り道。一緒に帰ろ!と言って腕を掴まれた。章ちゃんは何故かみんなを気にしながらそそくさとその場を離れ、2人になると急に落ち着きがなくなったから、何だかこっちが緊張してしまう。
『...しかもな、お前が気になる言うてたワイン、偶然仕事で貰て!』
私に向けられた章ちゃんの笑顔がぎこちない気がするのは気のせいだろうか。
「...えー狡い」
『..............、』
無理矢理口の端を吊り上げるように笑っていた章ちゃんが私を見たまま固まった。言葉に詰まったみたいにごくりと喉を鳴らすと、不自然な笑みを浮かべたまま目を逸らす。
...何なの。緊張するじゃない。...もしかして、...とか思っちゃうじゃない。
『...あ、...え、っと、あとな、家に新しいディフューザー...買ってな、そんでな、』
「...章ちゃんさ、」
無理矢理会話を続けようとする章ちゃんを呼んで止めると、章ちゃんの目が伺うように上目遣いで私を見た。
...なんか、怯えてるみたいに。
『...ん?』
...そんな顔されたら言いにくくなっちゃう。でも、このままだと家に着いちゃうし、...もしかしたら、もしかするかもしれないし...。
顔を上げて章ちゃんをまっすぐに見ると、一瞬飲み込みかけた言葉を思い切って章ちゃんにぶつけた。
「...私の事、誘ってる...?」
真ん丸になった目が私を見つめた。
少しの沈黙の後その目が逸らされると、また章ちゃんが口の端を不自然に吊り上げて首を傾げる。
『...や、』
「...なーんだ、誘われてるのかと思った...」
冗談みたいに笑って言えば、口を開いた章ちゃんが慌てたようにパクパクと口を動かした。
『...あ、俺んち!...行ってみる?』
やっと出てきたその言葉に鼓動が一気に早くなる。
何だか不安げに私を見る章ちゃんは、子犬のようで、愛しさに胸がきゅんと締め付けられた。
「...うん、」
『...ん、...ええよ、』
「ん、」
ぎこちない会話の中、章ちゃんが立ちどまったから数歩先で足を止めた。振り返ると、私に背を向け黙ったまま章ちゃんが俯いている。ゆっくりと近付いて横から顔を覗き込めば、両手で顔を覆っていた。
「...どしたの、」
小さな声で問い掛けてみると、顔を隠す手の隙間から見えた口元が緩んでいるのに気付く。
『......なんでもない...♡』
笑いを堪えるように言った後、更にふにゃりと歪んだ唇から覗いた章ちゃんの前歯が下唇を噛み締める。嬉しそうなその口元を見ながらカッと熱くなった頬を掌で覆ったら、章ちゃんが顔を上げ私にちらりと視線を向けた。
『...ほな、帰ろ』
照れ臭そうに、嬉しそうに笑いながら私の手を取って指を絡めるから、どうしようもなく嬉しくて愛しくて、赤い顔を隠すように俯いてその手を握り返した。
End.
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