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『おい、待てや』
「...............。」
「幼馴染み」も「兄妹」も「保護者」も、もうたくさん。今までどれだけ言われてきたかわからない。
信ちゃんを想う気持ちは、私の中でもう数十年前から幼馴染の域を脱しているのに。いつまでも私を子供みたいに扱う信ちゃんも、私達を兄妹のように見る周りの目も、もうたくさん。
『おい』
いつもより少し多く飲んだだけじゃない。歩けない程酔っているわけでもないし、1人で帰れないわけでもないのに、わざわざ信ちゃん呼んだの誰よ。
...信ちゃんは、デート中だったはずなのに。
「大丈夫」
さっき店に入って来た信ちゃんに誰かが『いきなり呼んでごめんね』と言うと信ちゃんは『ええよ』と愛想良く返した。
けれど、私を覗き込んだ信ちゃんは呆れたような顔をしていて『飲み過ぎや、アホ』と私の腕を引いた。
店から出てすぐにその手を払い、足早に歩き出した。振り向くことも、足を止めることもせずに歩く私に、信ちゃんが後ろから苛立ったように声を掛ける。
『物好きがおるかもわからんやろ』
「...は?」
『暗いと顔も見えへんしなぁ』
...何なのそれ。ほんと、むかつく。
そんな憎まれ口きくなら、来てくれなくてよかったのに。
信ちゃんなんて大っ嫌い。私の気も知らないでそんなこと言うなんて、本当に嫌い。
「...むかつく」
じわりと涙が滲んだから、俯いてますます歩くスピードを上げた。けれど後ろを着いてくる信ちゃんの足音も早くなる。
『...だから、送るて』
「...いいってば」
『ええことないやろ』
「信ちゃんに関係ない!」
振り返って信ちゃんにぶつけた言葉は、思いの外涙声になってしまった。
今の私は、自分で思うよりも酔ってるのかもしれない。だからこんなことで涙が出るんだ。
すぐに前を向いて再び歩き出した。最後に見た信ちゃんの顔は、眉間に皺を寄せた怒ったような顔だった。
すると急に腕を掴んで引かれ、驚いて思わず振り向いた。さっきと同じ表情で私を見る信ちゃんの手が、痛い程強く腕を掴んで離さない。
『あるわ』
普段の怒ってる、とは少し違う気がする。強い口調ではあるけれど、言い聞かせるように真っ直ぐに私を見て信ちゃんが言った。
『なんかあったら俺が困んねん』
...そんなの、初めて聞いた。いつもは貶すような事ばっかり言うくせに。さっきみたいに、憎まれ口ばかり叩くくせに。
「...何それ」
『せやから送る言うとるやろが』
「...フラれるよ」
『はぁ?』
「女の子置いて私のこと迎えに来たりしてさ、...フラれるよ、」
自分で言ったのに、泣いてしまいそうだった。気付かれないうちに信ちゃんから目を逸らして手を振り払い、背を向けた。何も言わない信ちゃんは、今何を思っているんだろう。いっそ、面倒臭い奴だと、愛想を尽かせばいいのに。
『お前より大事な女なんか居れへんわ』
その言葉にドクリと心臓が脈打って一気に体が熱くなる。
『物好きやねん、俺がな』
再び腕を捕んで引かれ信ちゃんを見ると横目で私を見て鼻で笑う。すぐに前を見て歩き出した信ちゃんの不機嫌そうに歪む口元を盗み見ながら、高鳴る胸を押さえた。
End.
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