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“ ...どうしたの?”
“ うん、暇やったから ”
暇な時間を潰すための相手に私を選んでくれたのが嬉しかった。もう15分続いている通話はたまに無言もあるけれど、その度に緊張してしまうけれど、それでも幸せで仕方ない。
電話の向こうの笑い声も彼が口にする私の名前も、胸をきゅんと締め付ける。今どんな表情で話しているのか、想像するだけで胸が苦しい。
『明日、どうする?』
「何が?」
『どっか行かへん?』
ついこの間の約束を思い出した。
“ いいね、免許持ってると色んなとこ行けるから ”
先週はどこに行って、昨日はどこに行ったと話す章ちゃんに言った。
“ じゃあ今度ふたりで遊び行こ ”
思いがけない誘いに驚いたけれど、嬉しくて嬉しくて、照れ臭くて、思わず素っ気なく言ってしまった。
“ ...奢りならいいよ、”
可愛くないことを言う私に、章ちゃんは“ もちろん ”と笑っていた。
『なぁ、聞いてるー?』
「...聞いてる」
我に返ると、妙に緊張してしまって耳に当てた携帯を握る手に力が篭った。
覚えていてくれたのが嬉しい。
『どこでも好きなとこ連れてったるよ』
...ドキッとしてしまった。だってなんか、その言い方って...
『何ぃ?どしたん』
黙った私に電話の向こうの章ちゃんが不思議そうに問い掛ける。
「...なんか...彼氏みたいな言い方だね、」
『あは、そう?』
「...うん、」
そっかぁ、と小さく呟いたっきり章ちゃんが黙ってしまった。
...やばい、恥ずかしい。変なこと、言わなきゃよかった。
『...彼氏なりたいから、明日...頑張って口説いてみよかな』
...時が止まったような沈黙だった。
聞き返したはずの声は声にならなくて、少し間を空けて章ちゃんが言った。
『......10時な、...明日、10時に迎え行くから』
頷いても章ちゃんには見えないのに、ただパクパクと口を動かすだけで声にならないから困る。
『...おやすみ』
...どうしよう、何か言わなきゃ。
慌てて口を開いたけれど、やっと出てきたのはか細い声だった。
「......章ちゃ、」
『楽しみにしてるな、明日』
すごい勢いで体中に血液が回り、一気にカッと熱くなって再び声を失う。もう一度、おやすみ!と言った章ちゃんに慌てたように電話を切られた。
待受に戻った携帯を暫く見つめてから胸に抱いて、胸の甘い疼きに悶えるように一人の部屋で蹲った。
End.
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