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「...ちょっと、待って、」
こんな章ちゃん、見たことない。
私の上で真っ直ぐに私を見つめるその目は、いつもの章ちゃんが纏う柔らかい雰囲気と比べ物にならない程色気を放っている。
『嫌や』
ベッドに倒されて私に跨った章ちゃんは、身動きが取れない程私の首のすぐ側に手を付き、反対の手は私の手首をベッドへ押し付けている。
飲み会の帰りにフラフラと歩く私を支えた章ちゃんは『危ないから家来たら?』と言った。
単純に嬉しくて、まだ一緒に居られるのが幸せで頷くと、章ちゃんが『ええの?』と聞いた。だからまた頷くと、笑みを浮かべて私の手を引き、ここに帰って来た。
『わかってて来たんちゃうの?』
ずっと見ていた。ずっと好きだった。
だけど、本当にこんなことになるなんて、思ってなかった。
想像していなかったわけではない。けれど酔っ払いの妄想に過ぎなかった。ただの理想のシチュエーションでしかなかった。章ちゃんがそんなつもりで私を部屋に入れるなんて、ないと思っていた。
「...でも、酔ってたし、...」
『今も酔うてるやん』
漸く浮かべてくれた笑みは、やっぱりいつもの章ちゃんのそれと全く違う。
それなのに、私の髪を撫でた手は壊れ物を扱うように優しくてますます動揺してしまう。
気持ちもわからないまま流されてはいけないことは、よくわかっているのに。
「......でも、やっぱり、」
章ちゃんがベッドに肘を付いたことで、その距離がぐっと縮まった。それでもぶれることなく真っ直ぐに私を射抜く目を、息を詰めて見つめていた。
『...大丈夫、俺は酔うてへんよ』
低く優しい声色と私の髪を梳く優しい手に、心臓がドクリと大きく脈打つ。
頬に指が触れぴくりと体が揺れると、そのまま片方の頬を、熱い章ちゃんの掌が覆った。
胸が高鳴って息が苦しい。章ちゃんの真っ直ぐな目に絆されてしまいそう。
『誘ったんは俺やけど、...頷いたんはお前やで』
噛み付くようなキスで塞がれて、吐息すらも奪われた。私の髪を乱してくしゃりと掴み、押え付けるように只管深く絡み付く。絡められた舌に溶かされて、体に這わされた熱を持った手に全ての思考を奪われた。
End.
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