30
話すこともなくなった。目が合うことすら、少なくなった。
“思春期だからしょうがないよ”
お母さんに言われたから納得したフリをしてきたけれど、いつまでもこのままじゃいけないと思った。そろそろ他の人に目を向けなければいけないと思った。
それなのに、なんで今日に限って来たりするの。この部屋に来るのは1年振りのはずなのに、昨日もここに来てたみたいにあまりに普通に入ってくるから戸惑う。
『どっか行くん?』
ジュエリーボックスを開けて中を見ていた私に忠義が言った。昨日も話していたみたいに、ブランクなんかなかったみたいに私に話し掛けるから、どうしたらいいのかわからない。
「...あー、うん...約束してて」
そう言ったのに、忠義は私のベッドに乱暴に腰を下ろし唇を尖らせる。
『...なんやねん、折角来たのにぃ』
...おかしいよ。話すのなんて、半年振りだよ。何しに来たの。何を言いに来たの。
今日の帰り際、去年同じクラスだった男の子に声を掛けられた。
『今日、飯食いに行こ』
いいチャンスだと思った。忠義以外の人を見る、いいチャンス。だからすぐにOKした。
そんな私をじっと見つめながら、忠義が彼の後ろを通り過ぎた。久し振りに目が合った。話が聞こえていたかどうかはわからない。
けれど、このタイミングで私の部屋に来たのには何か理由があるような気がしてしまう。
むくれている忠義を横目で見て、自惚れてしまいそうな自分を必死で打ち消した。
「...ごめんね」
私の言葉に返事はなくて、ふたりの間に沈黙が流れる。手持ち無沙汰でジュエリーボックスを無駄に漁っていると、溜息のような吐息が聞こえた。
『...デート?』
ドキリとした。私の横顔を見ているであろう忠義に目を向けることが出来ない。
「...違う、」
思わず口から出たのは否定の言葉だった。自分でも何故そんな嘘をついてしまったのかわからず動揺する。
...私は何を期待しているんだろう。
『...どうしても行く?』
行くって言ったらどうするの。
行かないって言ったら、私達の関係は変わるんだろうか。
『...行かなあかん?』
煩くなる鼓動が静かな部屋に響いて忠義に聞こえてしまいそう。
きっと忠義は知っている。私が今から誰と会うのか、きっとわかっている。
すると、視界の端の忠義が立ち上がったのが見えたから目を向けた。こちらに歩いて来て私の腕を掴んだ忠義が、目も合わせずに呟く。
『...嫌や、...ここ居ってよ、』
忠義の目が私を捉えて見つめると、掴んだ手に引き寄せられて包み込まれ、核心のない言葉に期待だけが膨らむ。
End.
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