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どうしても、堪え切れなかった。
ふたりきりなのだから、見られたら言い逃れ出来ないとわかっていたのに、我慢出来ずに涙が零れた。
ギリギリで章大から顔を背けた。頬を伝った涙を掌で拭って、顔を逸らしたまま目に溜まった涙をペーパーで拭き取る。顔を正面に戻して章大をちらりと見れば、章大は呆然と私を見ていた。だからすぐに、見られてしまったのだと気付いた。
...なんて言い訳しようかな。どうやったら誤魔化せる?下手な言い訳しか浮かばない。
なんで章大がそんな悲しい顔するの。
...やめてよ、また泣いてしまいそう。
『...なんで泣くん...?』
子供に問い掛けるような優しい口調で、心配そうに眉を下げ章大が伺うように私を見た。
「...泣いてない」
『泣いてるやん!』
「...煩い、」
...だから、なんでそんなに悲しい顔をするの。なんで章大まで泣きそうなの。...そういう優しさが嫌い。好きな子がいるなんて言いながら、そんな風に私を心配するなんて狡い。
唇を噛み締めたって、どうしたって涙が浮かぶ。再び章大から顔を背けるとその反動でまた一粒涙が零れ落ちた。
カーテンで仕切られた半個室の席から周りを見回した章大が、隣のテーブルから泣いている私への目を遮るように私の側に移動した。
周りはガヤガヤと賑わっているけれど、私から見れば完全にふたりきり。この狭い世界に見えるのは章大だけ。
言い訳なんて浮かばない。これ以上涙が零れないように我慢するので精一杯。
俯いた私の顔を覗き込むように見て章大が言った。
『...俺のせい?』
「...は?」
そう思われて当然だ。直前に話していた内容以外に、泣く要素なんてひとつもなかったのだから。
『...俺が好きな子居る言うたから、とか...?』
顔がカッと熱くなった。と同時に涙が込み上げる。もうどうしたって無理。抑えられない。どうしていいかわからない。
首を横に振った。泣きながら、顔を赤く染めながら、何の説得力もないけれど、否定するしかなかった。
それ以外には思いつかなかった。
『...俺、今めっちゃ我慢してんで』
「...え、?」
ちらりと視線を上げれば章大が身を乗り出して私を見ていた。思いの外その距離が近くてドキリとする。
すると、章大の指が頬に流れた私の涙を拭った。反対側の目に溜まった涙が零れ落ちると、章大の掌に頬を包まれたから心臓が一気に煩くなる。親指で頬の涙を暈しながら章大の顔が近付く。
「...何、...近い、」
『キス、したらあかんの...?』
予想外の言葉に、返す言葉が見つからない。逸らせずに絡んだままの視線に緊張が高まって涙は止まった。
反対側の手が髪を撫でるように頭の後ろに滑って引き寄せられ、ますますその距離が縮まる。
『...したい』
「...人、いるよ...」
『...俺のこと、好きなんちゃう...?』
「.................、」
『...なぁ、』
急かすように頭を撫でた章大を見ながら震えるように息を漏らす。すると唇が重なって、すぐに離れた。視線が絡み、また引き寄せられるように唇を重ねる瞬間、囁かれた愛の言葉は二人の唇に消えた。
End.
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