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シャワーを借りて洗面所でメイクをしながら、罪悪感は大きく膨れ上がっていた。
昨夜のことを思い返すと恥ずかしくて堪らない。酔っていたとは言え、信ちゃんに縋り付いてせがんだのだから。
こんなことは初めての経験だけれど、付き合ってもいないのにセックスなんてするもんじゃない。胸が痛くて仕方ない。想いは伝えるつもりはなかったのに、これからどうやって友達に戻ればいいというの。
寝室の入口から中を覗けば、信ちゃんがベッドの端に座っていたから、意を決してその背中に声を掛けた。
「…昨日、ごめんね」
振り返った信ちゃんは横目でちらりと私を見てからまた窓の外に目をやった。
『なんやそれ』
その背中が呆れているみたいで怖かった。もうすでに、友達に戻れないところまで来てしまったのかもしれない。
苦しい言い訳であっても、しない訳にはいかない。だってまだ私は、信ちゃんから離れる勇気なんてないんだから。
「...そういうつもりで来たわけじゃ、なかったから...」
無言の信ちゃんの背中を祈るようにただ見つめていた。
お願い。戻らせて。信ちゃんを失いたくない。
『...なかった事にしたらええんか?』
...違う、そうじゃない...。
私に背を向けたままの信ちゃんの言葉が胸に刺さった。
“戻りたい”ということは、私はそれを望んでいたはずなのに。それなのにどうして私が傷付くの。
『...せやろ?』
「信ちゃん、」
...なかったことにしたいわけないじゃない。ずっと好きだったんだから。忘れて欲しいわけない。
『...俺は、無理やで』
トーンの低い声で、心臓がドクリと脈打った。
振り返って私を睨むように見遣った信ちゃんがベッドから立ち上がり私に近付く。そして私の目の前に立って、苛立ったように言った。
『なかった事にするくらいやったら、最初からしてへんわ』
その言葉を、どんな意味で捉えたらいいの。
『...遊ぶ相手、間違うたな』
壁に押し付けるように体が密着して噛み付くようなキスで塞がれた。
...間違えてなんかいない。信ちゃんだから、寝たのに。伝えたいのに呼吸する隙も与えない程深く口付られて苦しい。見つめた瞳は射抜くように真っ直ぐに私を見ているから、荒い呼吸で途切れる声を必死に振り絞った。
「...信ちゃんだからだよ、」
End.
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