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玄関のドアが開く音がして、それだけで笑みが溢れた。テレビでしか見ることが出来なかった笑顔を想像して、もう既に幸せが溢れそう。
『ただいまー』
「おかえりー」
リビングのドアが開いて覗いた笑顔は真っ先に私に向けられる。...はずだったのに。
『うわぁーええ匂いするー』
笑顔が向けられたのは、ダイニングテーブルに並んだ料理たちだった。
まだ一度も私を見ていない気がする。
あ、今摘まみ食いしたでしょ。ちょっと、こっち見なさいよ!
「ご飯?お風呂?それとも私?」
ちょっと威圧的に聞いてみるものの、忠義の目はご飯をさ迷っている。
別にエッチがしたいとかじゃない。ただこっちを見て欲しいのに!
『久し振りやな♡』って、笑って欲しいだけなのに!
『んー...ご飯...♡』
...言葉を失った。こんなタイミングでやっと私に視線が向けられて、じっとりとした目で忠義を見つめていると忠義が苦笑いした。
『...怒らんとってよ、』
怒ってるんじゃない、拗ねてるの!
『ご飯の匂い漂う中でエッチしても集中出来ひんー』
だから、エッチしたいわけじゃない!
...っていう意味を込めて首を横に振ると、忠義が何故かパァっと笑顔になった。こっちに歩いて来て、新しい遊びを見つけた子供のようにニコニコと笑って顔を近付ける。
『...わかった♡』
「...何、」
『なら、先に一緒にお風呂な♡』
匂いしないとこなら集中できる、なんて言うから笑うしかない。
ちらりと見上げると既にすぐ近くにあった唇からキスが降ってきて、ここはまだキッチンだというのに甘く絡められた舌に溶かされていく。
End.
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