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私の部屋に入って来た章ちゃんの表情を見て思わず目を逸らした。
『俺便利屋ちゃうで』
機嫌、悪そう。こんな時間に呼んだのだから当たり前だ。それでもいつもは呆れたような顔をしながらも笑ってくれていたのに。
...ごめんね。こんなやり方しか知らないの。章ちゃんが来てくれたら、まだ私に構ってくれると実感できるから。
「...わかってるよ」
だったら、どうして来てくれたの。そのまま電話で断ることだって出来たはずなのに、どうしてわざわざ来たの。
持っていたバッグを私が背を預けて座るソファーに乱暴に放って、鋭い目を向けられ俯いた。
...だって、嫌だった。女の子と歩いている姿を見たら、耐えられなかった。
いつも優しいし一緒に居てくれるし、私のことを気にしてくれているんじゃないかと思っていたのに、急に距離を置かれてその上そんな場面を見せられたら、焦るに決まってるじゃない。
『好きな奴居るやろ?』
その一言で、やっと自分の失敗に気付いた。
「...それが何、」
『そいつに来てもろたらええやん』
...ほら、やっぱり。
章ちゃんは気付いていると思っていた。私の“好きな人”が章ちゃんだということに気付いていると、信じて疑わなかった。
「.......彼氏じゃないもん、」
今頃気付いたって、急過ぎてどうしたらいいかわからない。こうなった以上、告白するしか方法はないのだから。
それなのに、今日見てしまった光景が私の小さな勇気の邪魔をする。
『...俺やって彼氏ちゃうやろ、』
苛立ちを抑えるように少し震えた章ちゃんの声に胸が締め付けられる。顔は見ることが出来なかった。
言えばいいのに。好きなのは章ちゃんだよ、って、言ってしまえばいいことなのに、今となってはどっちにしたって終わってしまう気がしてなかなか言葉に出来ない。
『...おい、何とか言えや、』
恐る恐る見上げれば、章ちゃんの瞳が揺れていたから驚いた。その目に溜まった涙が今にも零れ落ちそうで目を離せずにいると、章ちゃんが私の膝を跨いで肩を押した。
「...章ちゃ、」
床に押し付けられ、顔の横に手を付いた章ちゃんが睨みつけるように私を見つめる。
『...お前、無神経やねん...』
言葉と共に零れ落ちた章ちゃんの涙が私の頬を伝う。
...無神経ってどういうこと。なんで章ちゃんが泣くの。そんな顔されたら、私を好きなのかと思っちゃう。
『...もう、無茶苦茶にしたろかな、』
目を逸らして震える声で呟いた章ちゃんの目が私へと戻って来てすぐに、噛み付くように唇が塞がれた。荒々しいキスのわりに、髪を撫でるように滑る手が優しくて、胸が苦しくて私まで泣いてしまいそう。
塞がれた唇はなかなか解放してもらえないから、言葉の代わりに手を伸ばして章ちゃんの背中を抱き締めた。キスが終ったら、一番に愛の言葉を伝える決意を固めながら。
End.
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