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『お前具合悪いんちゃうか?』
いち早く気付いてくれたのは信ちゃんだった。車の後部座席で隣の信ちゃんに苦笑いを返すと、数十分前に買い物をしたスーパーの袋からペットボトルを二本取り出した。ひとつを私へ押し付け、もう一本を後ろから私の首にあて顔を覗き込む。
『大丈夫。もうちょいや 』
頷いて大きく深呼吸すると、信ちゃんの手が私の髪を束ねて持ち上げ、直に首の後ろにペットボトルがあてられる。
こんな時にもその行動にドキドキしてしまうんだからどうしようもない。
『ええから外見とき』
信ちゃんを見遣ればそう言われて、苦笑いして逃げるように車の外に目を向けた。
『先行ってええで。俺こいつ見とくし』
日陰に出した折り畳みチェアに座り、友人達を見送る信ちゃんの背中を振り返った。信ちゃんがこちらを向く前に向き直って俯けば、頭をぽんぽんと撫でられ顔を上げる。
「...ごめんね」
信ちゃんは何も答えることなく私の向かいにあるコンクリートの段差に腰掛け、みんながバーベキューの準備をしているビーチを見遣る。
『どうなん』
「...少し良いかも」
『まぁしゃあないわ。暑いしな』
私には目を向けずに言うと、スポーツドリンクの入ったペットボトルを傾け、ゴクリと喉を鳴らす。その喉仏から目を逸らして俯く。
申し訳ないのと、...正直何を話していいのかわからない。信ちゃんが優しいと、どうしていいかわからない。
いっそ、いつもみたいにからかうような事を言ってくれたらいいのに。
「...行っていいよ」
信ちゃんが私に目を向けたから、ちらりとだけ視線を合わせ、無駄にペットボトルをくるくると回す。
「...つまんないでしょ、ここに居ても」
『別につまらんことないで』
当然のようにそう言い放って、信ちゃんが不思議そうに私を見た。
「でも、」
『なんやねん』
行ってほしいわけじゃない。本当は二人で居たいけど。
そわそわして、何が言いたいのか自分でもわからなくて言葉に詰まって俯く。
『居ったらあかんか?』
思わず顔を上げて信ちゃんを見た。
笑いながら私を見るその表情は、いつものようにからかう様な顔ではなく、馬鹿にするような顔でもなく、柔らかい表情だったからドクリと心臓が脈打つ。
「.....そうじゃないけど、」
『俺がええ言うとんねん。治るまで居ったるわ』
...信ちゃんのくせに。そんなこと言うなんて狡い。
「...うん、ありがとう...」
両手を空に向けて伸びをしながらくるりと向きを変えビーチを見遣る信ちゃんの顔を斜め後ろから盗み見ていた。
嬉しくて緩んでしまいそうな口を結んで息を吐き出すと、信ちゃんが背を向けたまま『なぁ、』と私に言った。
『...その代わり、アレな。すぐ治ったらあかんで』
「...何それ」
『...わからんならええわ』
呆れたように笑う信ちゃんの表情はよく見えないけれど、いつの間にか真っ赤に染まっている信ちゃんの耳を見てその意味を理解した。
「...ゆっくり、治せばいい...?」
『出来ればな』
End.
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