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隣を歩いてるだけで緊張していた。
『抜け出そう』なんて誘ったりする亮が悪い。そんな事を言われて期待しないわけがない。自惚れないわけがない。
前を歩く亮の背中をちらりと見てまた俯く。期待はしていてもやっぱり少し怖い。でも、今日でなければ言えない気がする。
「...家、行きたいなぁ...、」
勇気を出した呟きは、思いの外小さな声になった。けれど亮が顔を上げたから、きっと聞こえたはず。俯いたまま緊張しながら答えを待っていると、視界の端の亮のスニーカーがぴたりと足を止めて振り返る。だからちらりとまた視線を上げると、目が合って真っ直ぐに私を見つめたまま、私に向かって亮が近付いてきたから思わず後退る。すると腕を掴んで壁に押し付けられ、一瞬のうちに片手を私の顔の横に勢いよく付くからビクリと体が揺れた。
さっきまでとは比べ物にならない程鼓動が早い。絡んだ視線は逸れることなく私を見下ろしている。
「...び、っくりした、...」
『...そ?』
「...当たり前でしょ、...急に、壁ドンとか、...」
一瞬口の端を上げて、ふっと笑った亮が威圧的に私を見下ろす。
『“家行きたい”とか簡単に言うからやん』
トーンを落とした声で囁くように言うからますます鼓動が早くなる。こんな亮、見たことない。
「...だって、」
『こんな事なったら困るやろ?』
すっと顔を寄せて目の前で亮が笑う。息が掛かって心臓が飛び出しそうな程暴れる。すると、向けられていた笑みが急に消えたから背中がゾクリとした。
『...覚悟も出来てへんくせに』
囁かれた言葉に含まれる感情が苛立ちなのか卑しめなのかわからない。けれどどこか棘のある口調に圧倒され思わず口を噤んでただ亮を見上げた。すると突然ぶつかるように唇にキスを落とされビクリと体が揺れた。
『...それでもええなら来れば?』
亮を見遣れば、眉間に皺を寄せて私を睨むように見ていたから、“苛立ち”なのだと感じた。
だからますます自惚れてしまう。キスをしておいてこんな顔をするなんて、狡い。
「......行く」
ただ真っ直ぐに私に向けられる鋭い視線に、想いを込めて視線を合わせる。
「...覚悟、出来てる」
少しの沈黙の後、私の横の壁をドン、と殴って反対の手が私の腕を掴んだ。
『...言われんでも連れて帰るわ』
引かれるままに歩き出すと、掴まれていた腕から手が滑って、私の手に指が絡んだ。
End.
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