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侯くんの家の玄関を入ってすぐに、侯くんが振り返って距離を詰めるからドアに背中がくっついた。
本当に突然過ぎて頭は真っ白。ただただ驚いて体が固まった。
そうしているうちに近付いてきた唇。顔の横に付いた侯くんの手が逃げ場を無くすから、思わず顔を背ける。
「.....待って、」
ほんの少しだけ距離が離れて息を吐いた。けれどちらりと見た侯くんの瞳は熱を帯びたまま私を見つめている。
こくりと喉を鳴らして唾を飲むと、侯くんが低いトーンで私に言った。
『して欲しかったんやろ?』
...びっくりした。侯くんはそんな事を言うようなキャラじゃないと思ってた。
「...そんな事言ってない、」
『そういう目ぇしてたやん』
普段からは想像も出来ない威圧的な態度と見下すような表情に鼓動が早まる。
「...違う、」
私の言葉にふっと息を漏らし鼻で笑った侯くんが、口の端を上げて再び私に顔を寄せる。
『押さえつけてるわけちゃうねんで』
「...何、」
『はよ逃げてみぃや』
その表情は私を睨み付けるように苛立ったものに変わっていた。その意味が理解できない。私は侯くんを怒らせるような言葉を口にしただろうか。慌てて遡ってみても、焦る思考は追い付かない。
後ろはドアで、私の横にある手は決して私の動きを封じることはしていない。それでも、動くことは出来なかった。
『...知ってたやろ、俺の気持ち』
逃げることだって出来るのに、それが出来ないのはどうしてか、自分が一番良くわかっている。
『...それやったらこうなる事、わかってたはずやろ』
...期待していた。どこかでこうなる事を望んでいた。
ただ、突然過ぎて戸惑っただけ。普段と違い過ぎる侯くんに圧倒されただけ。
『なぁ。...なんでついて来た?』
僅かに穏やかになった口調。目を合わせれば、文句ありげな表情で私を見つめる侯くん。普段に近いそのトーンに安堵して小さく呟いた。
「.....侯くんだから」
一瞬バツが悪そうに目を逸らされ、その目が私に戻ってくると、ドアに押し付けられるようにして唇が触れた。離れて見つめた私の視線から逃れるように繰り返されるキスに、胸がじわりと熱に包まれ愛しい気持ちが溢れ出した。
End.
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