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“ 着いた ”
受信したメッセージを見つめたまま呆然と立ち尽くした。程なくしてもう1件受信したメッセージのポップアップが表示され、ゴクリと唾を飲む。
“ え、寝た?”
戸惑いつつも鼓動はどんどん早くなる。
「寂しくて寝られないんだもん」
さっき、誰でもよかったようなことを言って電話した。冗談のつもりだった。本当は、亮ちゃんと話したかったんだけれど。
インターホンが鳴ってまたドキリとする。部屋着だしスッピンだし、でももう着替えてる暇はないし、姿見で髪を整えて玄関へ向かう。鏡に移った私は、動揺丸出しの情けない顔をしていた。
ゆっくりとドアを開くと、にっこり笑った亮ちゃんの視線が私を上から下まで見たから、思わず照れ隠しの言葉が出てしまった。
「...なんで来たの」
『寂しい言うからやん』
キョトンとしてサラリと言ってのけた亮ちゃんにちらりと視線を向ける。
「だからって、」
『来てって事や思たから来てんけど』
当たり前のようにそんなことを言ってくれるから照れ臭い。優しいから勘違いしてしまいそうになる。こんな彼氏みたいなこと、普通にしてくれるから。
「...呼ばないよ、...彼氏でもないのに、」
『...そうやけどさぁ、』
口篭って俯いた亮ちゃんが何だかシュンとしているように見えてドキリとした。
そうだった。私、肝心なこと言ってない。素直に言わなきゃいけなかったのに。
沈黙の中で控えめに亮ちゃん、と呼べば、少し顔が上がって伺うような上目遣いで私を見る。
「...でも、来てくれてありがと、」
私から視線を下げてまた俯くと、次第に亮ちゃんの口の端が持ち上がる。歪んだ口元を引き締めるように結んだ亮ちゃんのその照れたような表情に、こっちが照れ臭くなる。
小さく咳払いして顔を背け、落ち着きなく視線を彷徨わせると、その目がちらりと私に視線を送りすぐにまた逸れて行った。
『...ほんまは、俺が会いたかっただけやねんけどな』
その言葉に一瞬で思考回路を止められた。
“会いたかった”
亮ちゃんの口から発せられたその言葉は、心臓を鷲掴みにしてどんどん私の鼓動を早めて行く。
様子を伺うように私を見遣り、目が合えば次第に赤く染まって行く亮ちゃんの顔。
『ちょ、待って、』
それを隠すように掌で自分の顔を覆って、亮ちゃんが小さな声で呟いた。
『...待って、...今の無し...』
自分でクサイ台詞を吐いておきながら、情けない声で照れる亮ちゃんを見ていたら、自分の顔の方が紅潮してくるからどうしようもない。
短く息を吐いてやっと顔を覗かせた亮ちゃんが、ちらちらと私を見る。赤い顔を隠すように今度は私が顔を背けると、開いたままの玄関のドアから左右を見回してから俯く。
『...お前は?』
「...え、」
『...来て欲しかったんちゃうの?...俺に』
期待を込めたような上目遣いに心が射抜かれる。目を逸らしても尚、私を見つめているような視線を感じてたまらなく顔に熱が集まる。
顔を見ることは出来なかった。
暫しの沈黙の後、小さく頷いた私を見て亮ちゃんの後ろでドアが閉まると、その胸の中に引き寄せきつく閉じ込められた。
End.
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