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日が暮れ肌を撫でる風が少し冷たくなってきたのを感じて腕を摩る。
季節が変わる。そんな当たり前のことで、どうしてこんなに気分が落ちるんだろう。夏が終わってもすばるはそこにいるのに、全てが終わってしまうような寂しさが胸を支配する。
ふと振り返り、提灯や白熱灯が下がる屋台の群を眺める。賑やかな空間から抜け出してしまえば、手に持つ水ヨーヨーすら虚しく感じた。まるで別の世界に来てしまったみたい。
『...おい、何しとんねん』
はっとして前を歩いていたすばるを見遣り、ゆっくりと歩き出す。するとすばるも、また前を向いて歩き出した。
微妙な距離を保って縮まらないのは、今の私達の関係そのもののような気がして、ますます切なさが募る。
『...夏も終わりやなぁ』
しみじみと空を見上げて言ったすばるの後姿を見つめる。
勇気を出して誘った今日の祭が、夏の締め括り。今と同じように背中を見ながら拳を握り締めてすばるに声を掛けた昨日に、もう一度戻れたらいいのに。
帰りたくない、なんて言えるはずもないから、背中から目を逸らし、俯いてゆっくりと歩く。
『足、痛いんか』
顔を上げるとすばるが振り返って私を見ていた。こちらに向かって戻って来たすばるに、首を横に振って否定して見せる。けれど、すばるは私の前にしゃがみ込み、下駄を履く足の甲に触れたからドキリとした。
『...大丈夫なん?』
「...うん、...大丈夫...」
下から私を見上げたすばるが、立ち上がると同時に掬い上げる様に唇が触れた。一瞬のことで、何が起こったのかわからなかった。
...キス、した。
理解した途端、顔に熱が集まってきて、すばるにちらりと目を向ければ、私から顔を逸らした。
『...無理せんでええから。ゆっくり帰ろな』
先に歩き出したすばるの背中をまた見つめてから、慌てて追い掛ける。その下駄の音にちらりと振り返ったすばるが歩を緩めまた前を向いた。
『...せやから、ゆっくりでええて』
後ろに差し出された手を見つめて胸が高鳴る。ゆっくりと手を伸ばしその手に触れれば、手を取られ、すばるの掌に包み込まれた。
End.
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