euphoria


57


...なーんか寂しい。薄暗くなってきた空も、少し冷たい風も、忠義との距離も。
歩いているうちに忠義と少し距離が出来てしまったから、後ろにいる忠義を振り返る。

『あー夏終わってまうー』

夕陽が沈んだ砂浜を振り返り、ゆっくりと後ろ向きに歩きながら忠義が言った。夏休みが終わる子供のような本当に憂鬱そうな嘆きは、こっちまでますます寂しくなるけれど、やっぱり愛しい。
太陽の姿はもう見えないけれど、まだ空に僅かにオレンジ色が残っているから、余計に名残惜しいのかもしれない。

沢山遊んだ。忠義にも、沢山会えた夏だった。二人きりは今日だけだけれど。それでもまぁ、満足はしている。
心残りは、想いを伝えられない事だけ。伝えられない、と言うより、伝える勇気がないだけ。
こうして会うことが出来なくなるのを想像すると、冗談でも“好き”という言葉を口にすることが出来ない。

くるりとこちらを向いた忠義が溜息をひとつ零して、空を見上げながら私の隣に並んだ。拗ねているみたいに少し尖っているように見える唇もまた、愛しくて胸が痛む。

『楽し過ぎたから、寂しなるな』
「...ん、そだね」

楽しかったのは、みんなと一緒だった日々のことか、今日ふたりの時間のことかわからない。
けれど、どっちだっていい。この夏に私と居たことを、私が居たことを思い出してくれるなら、それだけでいい。

「...来年も、遊ぼうね」

なんとなく不安になってしまった。何かが終わるわけではなく、季節が変わるだけなのに、何かを失ってしまうようなそんな気がしてしまう。それが何かわからないから、少し怖くて、胸が締め付けられるように苦しい。

すると忠義が目を丸くして私を見て、ふっと笑って首を傾け、私を覗き込む。その顔が優しくて、恥ずかしくなって思わず目を逸らした。

『俺ら、来年の夏まで会われへんの?』

忠義の言葉に笑って首を横に振れば、なんやねん、と私の腕を叩く。

『冷た、腕。寒いんやろ』
「…ちょっとね」

俯いて返せば、孤を描いた唇が覗き込むように目の前に現れた。ただその唇を見ていた。ドキリとする間もなく、一瞬で唇が重なる。押し付けられてすぐに離れて行った唇を呆然としたまま目で追うと、忠義がふっと笑みを零した。

『...ちょっとはあったかくなったやろ?』

一瞬で体温が上がった。まだ近くにある忠義の顔をちらりと見上げると、火照る頬を両手で包まれ、もう一度キスをした。


End.

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