06
なんとなく、いつもと様子が違うと思っていた。妙に落ち着いている、というか、口数が少ないというか。
嫌な予感しかない。だって、私達は。
『…終わりにしよ』
いつもみたいにベッドに横になって、ではなくて、ソファーに座って俯いたまま侯隆が言った。
...わかっていた。いつか終わりが来るのはわかっていたけれど、思っていたよりもだいぶ早くてまだ心の準備は出来ていない。
『な。…最初から無理やってんて、ソフレなんて』
...何それ。“してみよか”って言ってきたのはそっちじゃない。何がいけなかったの?私じゃダメなの?...想いを寄せる誰かに、罪悪感を感じたから...?
...何にしたって狡い。私の気持ちなんて何一つ知らないで、勝手に始めて勝手に終わらせるなんて、狡いよ。
「…言ってきたのはそっちでしょ、」
『…おん』
ソフレというこの関係が終わったら、友達にも戻れないような気がしていた。
...本当に終わり...?侯隆の寂しさを、私は埋めてあげられなかったんだろうか。私がもらった幸せは、全部切なさに変わってしまうんだろうか。
「…勝手だよ、」
思わず零れた言葉で、侯隆が顔を上げて私を見た。その目がなんだか怖くてすぐに目を逸らすと、小さな溜息が聞こえてきた。
沈黙が長過ぎる。付き合っているわけではないのに、別れ話でもないのに、このピリピリとした空気のせいで言葉が出ない。これじゃあますます、友達に戻るのは難しそう。
『…耐えられへんねん』
小さく呟いた侯隆にちらりと目を遣った。侯隆がここに来た時に淹れたコーヒーは、口を付けられることもなく冷え切っている。そのコーヒーカップを見つめたままの侯隆の口元を見つめて先の言葉を待つけれど、なかなか出て来ないから鼓動ばかりが自分の耳に響く。
『...生殺しやん』
「え?」
思いも寄らない言葉が発せられたから思わず聞き返した。すると睨むように私を見た侯隆の顔が赤く染まっていくから、ただそれを呆然と見ていた。
顔を逸らした侯隆が徐にカップに手を伸ばし、冷めたコーヒーを一気に口に含んでゴクリと喉を鳴らす。
耳まで赤く染まる横顔を見ていたら、カチャリとカップが置かれてその目が再び私を捉えた。
『...俺かてほんまはお前抱きたいわ、』
一瞬にして息が詰まった。その後吐き出した息が震えていた。言葉の意味は理解している。けれどそれが侯隆の本心なんだろうか。ただヤりたいだけ、ということではないんだろうか。
『...さっき、“勝手”って言うたよな』
私に向かって伸ばされた手が、私の腕を掴んだ。掴まれた箇所から熱が移ったようにじんわりと熱くなる腕、それと共に次第に高鳴っていく鼓動。
触れあっている箇所から侯隆に視線を移せば、真っ直ぐに私を見ていた。
『...ソフレを終わらせたないって意味?...それとも、』
唇が触れて掬い上げるようにキスをした。目を閉じる暇もない程すぐに離れて、目が合うこともなく腕を引かれ抱き寄せられる。背中に回った腕が私を締め付けて、くしゃりと髪を掴んだ手に、侯隆の肩へと顔を押し付けられた。
『...こっちが正解、やんな?』
...当たり前じゃない。ずっとこっちを望んでた。傍にいたかったけれど、ソフレになりたかったわけではなかった。
肩口で頷いた私の頭を撫でて覗き込むように私を見ると、照れ臭そうに視線を唇に移して少し強引に唇を奪われた。
End.
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