07
目を開ければ、私を覗き込むように見ていた章ちゃんが弾かれたようにぱっと離れた。それによって顔に当たった朝日が眩しい。だから自分の掌で影を作りながら起き上がると、章ちゃんが私から目を逸らした。
『お、おはよぉ、』
...章ちゃんってわかりやすい。私だって章ちゃんのせいで寝起きの心臓、バクバクしちゃってる。
「今さ」
『え、』
...怖い。けど、知りたい。意味はないなんて、ただしただけなんて思いたくない。
「...キス、した?」
一瞬目を真ん丸にして私を見た章ちゃんが、すぐに目を逸らして泳がせる。それを祈るような気持ちで見ていた。
『…えっ、と』
「…」
『…したん、かな?』
してない、と言われたら終わりだと思っていた。だから、ひとつ目の課題をクリアしたことで、ますます鼓動は高鳴る。
目を合わせないままとぼけるように首を傾げる章ちゃんから顔を逸らして、一度深呼吸。自分の手を固く握り締めて、章ちゃんに向かって言った。
「…なんで、」
震えるような声が出た。恥ずかしい程、情けない声だった。けれど章ちゃんは俯いたまま、落ち着かない様子で自分の指を弄ぶ。
その手が、ぴたりと止まった。ごく、と、章ちゃんが唾を飲むから、私まで釣られて唾を飲む。
『......寝言、言うから...』
そう言ってちらりと私を見た章ちゃんは、叱られた子供のように上目遣いで私の様子を伺う。
『…“章ちゃん”って、言うからさぁ…』
口元を手で覆った。カッと自分の顔に熱が集まるのを感じる。耳も頭の中までも沸いたように熱い。
...恥ずかしい。当たり前だけど記憶にはなくて、完全に無意識、夢の世界のことだったんだから。
『...言うから、...嬉しなってもうて、』
掌を合わせてその指先で口元を隠す章ちゃんは、ほんのり頬が赤く染まっている。ちらちらと私を見て目を逸らしては泳がせるその落ち着きの無さが、いつも余裕な章ちゃんにしては何だか新鮮な気がする。
「…嬉しいの、?」
はっきり言って。そうじゃなきゃわかんない。ソフレという私達の曖昧過ぎる関係を壊すものは、真っ直ぐな言葉しかない。
『......好きやもん、』
願いを込めたように私に向けられた上目遣い。その目に見つめられて、泣いてしまいそうな程昂る感情。それを抑え付けるように自分の手を握り締めると、熱を持った掌が私のその手を掴み、ゆっくりと引き寄せた。
End.
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