euphoria


09


...人気者過ぎる。わかってる。だから、期待なんてしてはいけないことだってわかってる。思わせ振りはいつものことだから、絶対に期待したらダメ。

隆平の誕生日パーティーはそこそこ人が集まっていて、隆平の周りには途切れることなく誰かがついている。それをただぼーっと眺めていた。
私なんてただの友人のひとりで、特別彼の目に留まるような存在ではない。ただ、隆平は優しいからいつも気にかけて声を掛けてくれるけれど。

なんとなく見ていたら、隆平が人を擦り抜けてキョロキョロと辺りを見回した。その目が私へ向けられてぴたりと止まると、隆平がふにゃりと笑って私に手を振る。
それに少し驚いてこっちに歩いて来る隆平を見ていたら、よいしょ、と言って私の隣の椅子に座ったから、さすがに少しドキリとしてしまった。だから誤魔化すように俯いて言った。

「...おめでと」
『ありがとーう!』

ちらりと隆平に目を遣れば、ニコニコと私を見ているから落ち着かない。口を開くわけでもなく、ただそこに座っているから、また気を遣われてるのかなんて考えてしまう。

「プレゼント、」

何か話さなくては、と慌てて探した話題。今日持って来られなかったプレゼントの言い訳をしようとまた隆平を見た。

『お前?』

こんな冗談をいう時のお決まりのキメ顔。私がそんななんてことない一言や表情に、どれだけドキドキするか知らないくせに。悔しい。

『…なんつって♡』

すぐに表情を崩してヘラ、と笑った隆平が肩を上げておどけてみせるから目を逸らした。...悔しい、本当に悔しい。

「いいよ」
『え』

先に冗談を言ったのは隆平の方でしょ?なんでそんなに驚くの。
...私は、半分本気だけど。

睨むように隆平を見れば、目を丸くして私を見ていた。その目が逸らされて落ち着きなく泳ぐ。

『いや...今のは冗談ていうか...』

...そんなのわかってる。わかってるけど、悔しいじゃない。いつもの期待を持たせるような隆平の言葉に傷付いてる女もいるんだって、わかればいい。それを理解してくれたら、ちゃんと嘘だって言ってあげる。

「...本気なら、いいよ」

再び真ん丸に形を変えた隆平の目が私に戻ってきた。その顔が次第に赤く染まっていくと、隆平が自分の口元から頬を両方の掌で覆った。
...意外な反応だった。そんな照れたみたいな反応、すると思ってなかった。

『...ええの...?』

そう言ってまた目を逸らした隆平を呆然と見つめていた。
...嘘。何それ。そんな顔真っ赤にして、また『冗談』って笑うの?嘘、でしょ...?

「...本気じゃないと、やだ...」

こんな言葉が出てしまったのは、期待を捨て切れなかったから。祈るような想いで見つめれば、頬を覆ったまま耳まで真っ赤に染めて、隆平がゴクリと喉を鳴らした。

『...ほんまは、めっちゃ本気』

逸らされていた目が私に戻って来た。照れ笑いを浮かべた隆平が上目遣いで私の様子を伺っている。
顔がカッと熱を集めたから、目を逸らし掌で口元を覆うと、その手が震えていたから余計に恥ずかしい。

急に手首を掴まれて口元から離されると、隆平の顔が近付いてきたからドキリとした。けれどその顔は私の耳元で止まった。

『...今日、一緒に帰れる?』
「...........、」
『帰ろ。...な?』

小さく頷けば、ふふ、と耳元で笑い声が漏れて私の肩に隆平の額が乗せられた。

『...あー、どうしよ。今すぐにでも帰りたい、』

私にだけ聞こえるほどの小さな声で呟くと、手首を掴んでいた隆平の手が、テーブルの下で私の指へと滑り絡められた。


End.

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