euphoria


Proud


居ても立ってもいられなくなってしまった。家に帰って、躊躇う間もなく通話ボタンを押していた。もしかしたら、あの時電話を掛けてきた章ちゃんも、こんな風に勢いで通話ボタンを押したのかもしれない。

『...もしもしぃ』

少し長めのコールの後、いつも電話で聞くよりも少し疲労を含んだ声が聞こえてきて息を吐き出した。

「...ごめん」

舞台が終わるまで掛けないと約束したのに。母親みたいなことは言わないと決めたのに。手を抜かない章ちゃんを誇らしく思い、尊敬しているのに。

『んーん、なんかあった?』

今日、内緒で見に行った舞台で久し振りに章ちゃんの姿を見た。観劇中章ちゃんはそこには居なくて、拍手をしながら堪え切れず零れた涙を拭い、カーテンコールで章ちゃんに戻った章ちゃんを見たら、どくりと心臓が刺激された。
最後に会った日に抱き締めた腰は随分と細くなったように感じていたけれど、それよりも更に細くなったように見える体に、胸が締め付けられた。

「...ない」
『ないんかい』

ふふ、と笑う章ちゃんは、私の言葉を少し待った後突然、大丈夫、と言った。

『ちゃんと寝てるし、ちゃんと食うてるよ』
「...そうなんだ、」

やっぱり章ちゃんはいつも私の考えることがわかってしまう。
でも素直に心配だと言うことが出来なかった。だから電話したんだよ、と言えなかった。
細い体のわりによく通るパワフルな歌声を誇らしく思ったのは確かだから。

『あ、あと、体重1kg増えたぁ』

...そんな風には見えなかったけどな。
私を心配させないために吐いた嘘なら、今は騙されてあげる。

「...ん」

“マルの奢り!”というメッセージと一緒に一昨日送られてきた豪華な料理の写真を思い出してみれば、きっと近くにいる沢山の人が章ちゃんを見守ってくれているはずだから。

『ただの報告でしたぁ』
「...ふーん」
『...んふふ』
「...何、」

今の笑い声は、無理をしていないいつもの章ちゃんと同じだ。

『...心配で電話してきたくせにぃ...♡』

やっぱり章ちゃんはいつも私より上手。私の思う以上の事を返してくれる章ちゃんにはいつも勝てないから、ちょっと悔しくて勢いに任せて言った。

「当たり前でしょ!痩せ過ぎてたから心配したの!」

え、と間抜けな声を漏らした章ちゃんに、バイバイも言わず電話を切ってやった。
結局大人しく見守ることも満足に出来ない私は、章ちゃんと違っていつまで経っても子供なのだ。

すぐにまた鳴り始めた着信音を途切れさせれば、抗議の声と共に子供のような無邪気な笑い声が聞こえてきたから、その声をもっと近くに感じたくて目を閉じて彼の笑顔を瞼の裏に浮かべた。


End.

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