euphoria


Soothe


なーんとなくモヤモヤして心が晴れない。昼間見た不確かな情報を纏めた記事のせいかもしれない。章ちゃんや彼等のことを面白おかしく書かれたそれに、苛立ちが募る。
きっと本人は、私が思う程気にしていないんだろうけれど。よくある事、ってきっと笑う。彼は大人なのだ。

ソファーに座ったままあっちでフローリングに譜面を広げている章ちゃんの背中を見つめる。
寂しいのとは違う。同じ部屋にいるのに構ってくれない、なんてそんな事で拗ねたりはしない。
けれど、そこに居るのに遠い気がしてしまうのは、わりとよくあること。こんな気持ちの日は特に。

『わ!びっくりしたぁ、』

後ろから章ちゃんの背中に抱きついた。後ろを振り返ろうとしているのか章ちゃんの体が左右に揺れるけれど、構わず背中に頬をくっつけていた。目を閉じてただその体温を感じる。
邪魔をしたいわけではない。構って欲しいわけでもないから、少しだけこのまま。

お腹に回した私の手の甲にポンポンと叩くように章ちゃんの掌が重なる。

『背中でええの?前から抱っこしたろか?』
「いい」
『ん』

私の手を包んだまま少し前のめりになったから、きっと仕事を再開させたんだろう。
それでも時折私を気にしながら手に触れて、優しく撫でる。結局邪魔になってしまっているのかもしれない。けれど、極力気を散らすことがないように黙っていた。

暫くすると、章ちゃんが体を起こした。拳を天井に向かって突き上げ、伸びをしながら欠伸をすると、一段落ついたような溜息が聞こえた。

『起きてるー?』
「起きてる」
『あは、静か過ぎて寝たんか思た』

笑う章ちゃんは私の手の上から掌を重ねて、まるで慰めるかのようにまたポンポンと叩く。
あまり自分からくっついていく事のない私のこの行動を、章ちゃんはどう思っているんだろう。

「...何にも聞かないんだね」
『だって話したいなら自分で言うやろ?』

いつも包み込むように優しくて大人だから狡い。もう、一生章ちゃん以外の人を好きになれないんじゃないかと、本気で思う。

『何考えてるか大体わかるしな』
「...じゃあ、言ってみて」
『“章ちゃん大好き♡”』

いつもそう。本当に私の気持ちをよく知っている。全て見透かしているみたいに。

「...いつもそれ」

照れ隠しの言葉さえも、章ちゃんはちゃんとわかっている。顔を横に向けて背中の私に視線を寄越し、ふっと笑みを零して悪戯っ子のように笑った。

お腹の前に回した私の手をやんわりと章ちゃんが解いて、くるりと振り返ると正面から抱き寄せられた。

『さ、終わりにしよ』

肩に乗せられた顎の重み、私を抱く腕、くっついた胸から感じる鼓動で章ちゃんをやっと近くに感じた。
やっぱり章ちゃんは、いつも強くて、大人。傍にいれば、いつも先回りで、必ず不安を取り除いてくれる。

章ちゃんの向こう側に散らばる譜面をぼんやりと見つめてから目を閉じた。

『何する?寝る?』
「...まず楽譜、」
『とりあえず1回、キスさして』

最小限体を離して唇が触れると、そのまま床にゆっくりと倒れ込んだ。私の頭を支えていた掌は高めるように髪を撫で、離れた唇は孤を描いて優しい笑みで私を見つめた。


End.

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