Songwriter
『なにぃ?』
「ううん」
ソファーの上の章ちゃんがふっと笑って自分の横に置いた譜面にまた視線を戻した。すぐにまたアコギの音色と共に言葉にならない声がメロディに乗って紡ぎ出されていく。
それをソファーの下からぼんやり眺めていると、暫くしてまた章ちゃんの手がピタリと止まり私を見る。
『...どうしたん?』
「ううん」
『構って欲しいん?』
「ううん」
『じゃあなにぃ?』
笑いながら首を傾げる章ちゃんに首を横に振りながら、章ちゃんの足元のそれに視線を落とす。
さっきから触っていた足首に巻かれたブルーのアンクレットを弄っていると、また笑い声が漏れる。
「...邪魔?」
『邪魔とかちゃうよ。こそばいねん』
「ごめん」
『んふふ、大丈夫。...寂しい?』
「ううん」
『ちゃうの?構って欲しいんやろ?』
「別に」
『構ったるよ?』
「大丈夫。続けて」
『えぇ?』
なんやの、と笑いながらもまたすぐに聞こえてくるメロディ。
近くにいても大丈夫だと言われたからそうした。章ちゃんとはずっと友達だったけれど、こんなクリエイティブな一面を見られるようになったのはつい最近。
正直、いくら見ていても飽きない。弾いて歌ってメモをして、の繰り返し。章ちゃんの作品が生み出されるこんな貴重な瞬間に立ち会わせてもらえるということが、何だか未だに信じられないけれど。
邪魔するつもりなんて本当になくて、構って欲しくて触れていたわけでもない。
ただ、そんな姿を知ってしまった分、何となく章ちゃんが遠い気がしてしまっただけ。だから触れた。肌だと気になると思ったから、いつも身につけているそれに。
居てもいいとは言われたけれど、結局邪魔になっているみたいだから、一時退散。
章ちゃんが譜面を見ている間に静かに立ち上がった。それにすぐに気付いて私を二度見する。どうした?と問うような顔をしているけれど、それでもギターを弾く手は止まらないから、言葉を掛けずに笑顔を向けて隣の寝室へ入った。
ドアを開けておけば章ちゃんの声が聞こえるし、ここだって充分特等席。
...ラブソング、のイメージ。さっき章ちゃんがメロディに乗せて紡ぎ出した声が、何となく愛の言葉の断片のように聞こえたから。
ベッドに俯せに倒れて目を閉じると、アコギの音色もそれに乗せられる章ちゃんのメロディも心地いい。メモをとる間のその音のない僅かな時間が、妙に静かで寂しいくらい。
暫くすると、ペタペタと近付いて来る足音が聞こえた。ベッドが沈み込む感覚の後、俯せの私の太腿辺りに章ちゃんが跨る。
『...寝た...?』
横に向けた私の顔に掛かった髪を払いながら、伺うように顔を覗き込んだ章ちゃんと目が合う。
ふっと笑って章ちゃんが腰を上げると、足の間で仰向けにされた。
『起きてるやんかー』
「もう終わり?」
『#name1#がいなくなるから』
「え?」
『俺の方が寂しなったやん』
章ちゃんが私の顔の両脇に手を付き、笑いながら見下ろされる。
章ちゃんって優しい。本当は『ちょっと構ってやろうかな』って思って来たくせに。
「...章ちゃんて、寂しがりやなんだね、」
けれど素直じゃない私は、章ちゃんの言葉を鵜呑みにした振りをする。...だって、恥ずかしい。
『近くに居ってええよー言うたのに行くからやんかぁ』
「邪魔だって言うから」
『言うてへんしー』
「そんな顔してたしー」
『してへんしー』
...していなかったし、きっと本当に思ってもいないはず。けど、そんな可愛くないことを言う私を、章ちゃんは笑顔で受け入れてくれる。
顔が近付いて来たから目を閉じた。すぐに触れた唇で優しく私の唇を食んで、章ちゃんの手が優しく髪を梳く。
離れてはまた食んで、繰り返される柔らかいキスに酔いしれていると、章ちゃんがゆっくりと体を密着させ背中の下に手が差し込まれた。
『なぁなぁ、...する?しちゃう?』
...したい。けど、すぐに頷くのは恥ずかしいから、いつも曖昧な態度を取ってしまう。
それを少し微笑んだ章ちゃんに、言葉もないまま見つめられる。何だか妙にドキドキする。全部見透かされているみたいで。
『#name1#の頭ん中に、したい、って書いてある』
「...章ちゃんがしたいだけでしょ、」
『あは、バレた』
やっぱり見透かされてた。それでも章ちゃんは、やっぱりこんな私を受け入れる。私が言葉にすることが苦手なことを、全て理解した上で。
『...してもええの?』
甘えるような口調で問われ、章ちゃんの片手が頬を包み背中の手は腰へ降りて肌を這う。返事を急かすように近付く章ちゃんの顔は、優しい笑顔で私を見つめる。
数十分前に感じた章ちゃんとの距離は、もしかしたら、私にも埋められるのかもしれない。
「...うん、...私も、したい」
目を丸くして私を見た章ちゃんから目を逸らした。そんな私を見て、ふふっと笑ってキスを落とす。
『ほんなら今日は、めっちゃ愛したろ』
抑えきれない笑みを浮かべたままの章ちゃんの唇に、両手で頬を包まれて唇を優しく塞がれた。さっきまで愛のメロディを口ずさんでいた、その唇で。
たっぷりの愛を注ぎ込むように何度も重ねられる唇と強く私を抱く腕に、これ以上の愛を返す術を私は知らない。
End.
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