Jealousy
体がびくりとして目が覚めた。今見ていた夢の内容を振り返って顔がカッと熱くなる。
...私、半裸。キャミソールの下で胸を包む背中側から回された手と、もう片方の手は私の下着の中にあって、今見ていた夢の原因は私の中心部に当たるこの指のせいだと確信した。
章ちゃんはいつ来たんだろう。
昨夜のことを思い返してみるけれど、頭が痛んでよく思い出せない。完全に飲み過ぎた。
急に友達に誘われた飲み会の席から章ちゃんに電話を掛けた。数時間後に会う約束をしていたし、少し帰るのが遅くなるから。電話に出た章ちゃんはいつもとは比べ物にならない程素っ気なく言った。
『ほんなら、今日はナシな』
少し遅くなるだけ、と訂正しようとした私の耳に僅かに聞こえたのは、『早く』という女の人の声だった。
だから、私の背中にかかる温かい寝息に少しほっとしていた。
顔だけを動かして後ろを見ると、見慣れないメッシュの頭が私の背中にくっついているから血の気が引いた。一気にドクドクと心臓が脈打って焦る。
昨夜、飲み会で会った男の人達を思い浮かべる。知らない顔は一人しかいなかったはず。その人がどんな顔だったか、こんな髪の色だったか、と聞かれたら、...覚えていない。
一瞬で昨夜のことをあれこれ思い返したけれど、曖昧な記憶と激しく脈打つ心臓のせいで答えに辿り着けない。
顔を前に戻して落ち着こうとするけれど、無理。そうしているうちに私の中心にある手が僅かに動いたから、慌ててその手から逃れるように離れて振り返る。
『...なん、』
「.................、」
見慣れない髪色。前髪についた寝癖。顔を上げたのは、紛れもなく章ちゃんだ。
『...んもー...びっくりするやん、』
はぁ、と溜息をついて布団に顔を埋めた章ちゃんを呆然と見つめる。
「......誰かと思った、」
再び伸びてきた手に引き寄せられて布団に引き摺り込まれると、今度は正面から抱き締められて、甘えるように私の胸元に顔を埋める。目の前にあるメッシュの入ったその髪に触れると、章ちゃんが顔を上げた。
『...めっちゃ心臓バクバクしてるんは、...なんでなん...?』
まだ寝ぼけ眼でキョトンと私を見ている章ちゃんから顔を逸らして苦笑い。
「...章ちゃんじゃないかと思った...」
『...俺以外の人に抱き締められたらドキドキするってことぉ...?』
「...そういう意味じゃないけど...」
...ないけど、章ちゃん以外の人と寝てしまったかと思ったなんて言うのはさすがに気が引ける。
黙っていたらキスが落とされて、下着の上からさっきまで触れていた中心部を章ちゃんの手が撫でる。
『...じゃあなんでこんなびちゃびちゃなん?』
ちょっと不機嫌にも見える顔で見つめられて、章ちゃんの手を掴んで退かす。
『俺やない方が興奮するん?』
「...だから、そうじゃないってば...」
章ちゃんが私を触ってたからじゃない。だから章ちゃんとセックスしている夢なんて見たんでしょ。
グイ、と強引に頭を引き寄せられて唇を塞がれた。章ちゃんにしては珍しく荒っぽいキス。
...と思ったら、すぐに唇は開放されて、不機嫌さにプラスして拗ねたような表情の章ちゃんが私を見つめる。
『...昨日の今日で、なんなん、...もー、...』
鎖骨辺りに章ちゃんの頭がどん、とぶつかる。それと同時に背中と腰に腕が回って体を締め付けられる。
...何を怒っているんだろう。そう言えば、電話の時から既に機嫌が悪かった。
『...質問』
顔を埋めたまま章ちゃんの籠った声が聞こえる。
『...誰と居ったん、昨日』
「...友達。10人くらい、」
『...男は?』
「...4人」
『電話の時めっちゃ声してるからちょっとイラッとしてもうた』
顔は見えないけれど、胸元に掛かる熱い吐息からも苛立ちを痛いほどに感じる。章ちゃんがこんなことを言うのは初めてだ。いつも妬くのは私だったんだから。
雰囲気が違い過ぎてまだ見慣れないそのサラサラの髪をポンポンと撫でれば、ますますぎゅっと抱き締める。...きっと昨日は美容院にいたはず。だから、あの声は、なんてもう気にしない。
『...俺そんな奴ちゃうかったはずやのに』
「え?」
『#name1#の友達に嫉妬するようなちっさい男ちゃうはずやのにー』
“私も同じ気持ちだったよ”
...とは、言わないでおく。いつもと逆の立場なんてなかなかないんだから。
だから今日は、私が余裕を見せる番。
『...なぁ』
「......ん、」
『...#name1#のせいで機嫌悪いで、俺』
顔を上げた章ちゃんと目が合った。拗ねたような顔をしているのに、手が肌を撫でる。
『どうしてくれるん、...なんとかしてもらえます?』
少し躊躇ったのに気付かれないように、なんでもない振りをして章ちゃんを抱き締めた。いつも章ちゃんがしてくれるように、ぎゅっと強く。
『...#name1#、苦しい』
頭をポンポンと叩かれ顔を合わせると、私を見つめたアーモンド型の目が少し細められて、章ちゃんがふにゃりと笑う。
『...よかったぁ。俺にもドキドキしてくれるんや?』
くっついた胸から鼓動が伝わってしまったのが恥ずかしい。余裕なんてない。いつも私ばかりドキドキさせられて、結局章ちゃんのペースなんだから。
悔しい勢いに任せて片手で頬を包みキスをすれば、顔に熱が集まって頬に触れた手が微かに震えた。...やっぱり慣れないことなんてするもんじゃない。
すると手を握られて章ちゃんが私に跨り、ベッドに張り付けられる。
未だに見慣れないその髪から覗く優しくなった目と柔らかくなった表情に安堵する。
『昨日、珍しくめっちゃ酔うてたなぁ?』
軽くキスを落されて、離れた唇が弧を描いて私を見つめる。余裕たっぷりに見えるその表情で。
『今度は俺が機嫌取る番かな。...な?』
...もしかしたら酔っているうちに何か口走ってしまったのかもしれない。けれど、柔らかく愛撫するように絡んだ舌と肌を滑る優しい手が心地良くて絆されてしまう。
...考えたって仕方ない。余裕がなくたって、全部見透かされていたって、いつも大きな愛で包まれていることに変わりはないのだから。
End.
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