Caring
無意識のうちにポロ、と零れた涙が自分の手の甲に落ちて泣いていたことに気付いた。
すると目の前に覗き込むように横向きに現れた章ちゃんの顔。涙を拭う暇もなかった。
『どしたん?』
目の淵を掻くみたいに誤魔化しながらその涙を拭う。
仕事であった嫌な事を一から話すのも気が引けて何となく黙ったままでいると、章ちゃんが私の前にしゃがみ込んで首を傾げた。
『泣いてるん?』
「泣いてない」
咄嗟に口から出た嘘に章ちゃんが気付かないはずもなく、ふっと笑みを零して頭の上にふわりと手が乗った。わしゃわしゃと髪を乱すように頭を撫でられたら、何だか甘やかされてるみたいで目頭が熱くなる。
『その割にぶっさいくやわぁ』
冗談だとはわかっているけれど、睨むように章ちゃんに視線を向ける。んふふ、と含み笑いをした章ちゃんから目を逸らして俯くと、黙る私の頭を撫で続けた。
暫らくするとポンポン、と軽く頭を叩いて章ちゃんが腰を上げた。
...いつものこと。今どうして欲しいか、わざわざ聞くことはしない。一人にして欲しいわけじゃなければ、私が章ちゃんを引き止めることを知っているから。
「...どこ行くの」
その背中に声を掛ければ、振り返って章ちゃんが笑った。
『構ってくれへんから寝るー』
章ちゃんのスウェットパンツを掴んで引き止めれば、少しずり下がったウエスト部分を押さえながらまた笑う。
『...なんで掴むん?』
パンツを掴む私の手を取ってまた私の前にしゃがんだ章ちゃんが、やわやわと手を握りながらにこやかで優しい表情を浮かべて私を見つめる。
『何ぃ?』
逸らした目をちらりと章ちゃんに向けて訴えると、より深くなった笑い皺。
『ん、...抱っこな♡』
掴んでいた手を離して両腕を広げた章ちゃんが、動かない私の背中に腕を回して引き寄せた。章ちゃんの肩口に頬がくっつくと、優しい手が子供を宥めるみたいに背中を一定のリズムでポンポンと叩く。章ちゃんの体温と香りとその心地良さに、ただ只管甘やかされながら目を閉じた。
End.
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