空に向かい願う
駐輪場から出て来たキラキラ光る金髪は、見慣れた人だけれど自転車に跨っているのは珍しくて思わず足を止めた。その姿を目で追っていると、安田先輩の目が私で止まって笑顔を向け、私の前まできてブレーキをかける。
「珍しいですね、自転車」
『朝遅刻しそうやったから』
ハンドルに肘を付いて私を覗き込む様に見るから今日も胸が苦しい。私がドキドキすることをわかっていてそんな事をしてるんじゃないかと思うくらい、先輩の行動にいちいち動揺してしまう。
『後ろ、乗ってく?』
ドキリとして思わず口を噤む。急に忙しないビートを刻み始めた心臓のせいで体が熱い。
正に少女漫画。理想の帰り道。
...でも現実にはちょっと躊躇いもある。くっつくのは緊張してしまうし、...重いし。
私が頭でごちゃごちゃ考えているうちに、頭を掻いた先輩が私をちらりと見て言った。
『...あー...やっぱ、やめた』
先輩が俯いて笑った。
すぐに取り消されてしまった言葉のせいで、ますます体は熱くなる。期待して自惚れて、恥ずかしい。
頷いてしまってからじゃなかったのが、唯一の救い。
すると先輩が自転車から降りて私に目配せすると歩き出した。
『行こ』
その言葉に驚いて自転車を押して歩く先輩を追いかける。乗せないって言ったのに、なんで...。
ゆっくりと歩く先輩を追い掛け、後ろから問い掛ける。
「一緒に、帰るんですか...?」
『帰らんの?』
私を見て笑みを浮かべ首を傾げた先輩がふっと息を零して笑った。
「やめた、って言うから...」
目を丸くして私を見た後、その目が逸らされ、俯いた先輩が笑った。なかなか答えが返ってこないから伺うようにちらりと先輩を見ると、反対側に顔を背けてしまったから左耳のピアスを見つめていた。
『...だって、乗せたらいつもよりはよ着いてまうもん』
その言葉にみるみるうちに熱くなっていく頬に掌を当てた。
...どうしよう。好きで、好き過ぎて、たまらない。
くるりと顔を戻した先輩がちらっと私に目を向けた。目が合うと、また逸らして前を向く。
『...何?』
...それ、どういう意味ですか?
...なんて、聞けなかった。
「...なんでもないです、」
距離は縮まっていると信じたい。
この想いが、届くと信じたい。
私に向けられたその笑顔が特別なものであるように、青い空に浮かぶ雲を見つめて密かに願った。
End.
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