雨のちニジイロ
『...いけなくはないかも』
『...そう?濡れる気しかしないんだけど』
朝の青空が嘘みたい。
昼休み、突然の土砂降りに驚いたけれど、帰りには弱まっていた。それでも傘をささなければ厳しい。
友人の手には一本のビニール傘。その小さめの傘を3人で見つめる。
「でも、入らないよりはマシかも…」
『だよね』
広げた傘に、せーの、で3人で身を寄せ合って雨の中へ飛び出した。あっという間に肩が冷たくなって、ちらりと見下ろしたスカートにもいくつも雫がついていた。
...あ、無理っぽい。
すぐに気付いたけれど、他に傘を持っている人を見つけられなかったんだから仕方ない。
『あは、何してるん』
思わず後ろを振り返ると、傘をさして片手で口元を隠して笑う安田先輩。
「あ、先輩...」
団子になったまま一斉に動きを止め、こんにちは、と言った私達を見て『ふざけてるわぁ』と先輩がますます笑う。
『さすがに3人は無理やろぉ』
「傘持ってなくて、」
『めっちゃ濡れてるやん!傘の意味ないんちゃう?』
「...ですね、」
言ってるそばから小降りになってきた雨に安堵して3人の塊が少し解れる。曇り空の下でも変わらずに映える先輩の金髪に、今日も胸がきゅっと締め付けられた。
3人の間を行ったり来たりしていた先輩の目が私で止まった。口角が更に少し持ち上げられて、先輩が口を開いた。
『こっちおいで』
優しく細められたその目は私を見ているのに、声が出なかった。
「...私、ですか?」
『ん。』
やっと出てきた言葉を言い終える前に、先輩の手が迷わず私の腕を掴んだ。思わず目を丸くした私を見て、ふっと息を漏らして笑うと、腕を引きながら私を先輩の傘の中に引き込む。
『お前は俺とこっち。な?』
首を傾けた先輩に戸惑いながらも小さく頷くと、私の気持ちを知る2人の友人が楽しそうに手を取り合っていた。
『連れてってもいい?』
どうぞー、と返す2人に手を振った先輩が、私に笑顔を向けて歩き出した。腕を掴んでいた手はもう離れているのに、熱が集中したように腕が熱い。
こんなの、どうしたってドキドキしちゃう。
『どっか行くとこやった?』
「...あ、ちがいます、」
『そうやんな、あれじゃ行かれへんもんな』
俯いて笑った先輩の横顔はいつもよりも距離が近くて胸が高鳴る。
傘に当たる雨粒の音はもうほとんど聞こえてこないけれど、それでも触れ合う肩が嬉しくてドキドキして、何を話すかなんて考える余裕はなかった。
『傘広なったし、デートでもする?』
デート。その言葉に鼓動がますます早くなった。上手く声が出せる気がしなくて小さく頷いたけれど、俯いたままの先輩は私を見なかった。
...どうしよう。見えて、なかったかな。
伺うように先輩の横顔をちらりと見たところで、先輩が口を開いた。
『...そのままウロウロしたら、風邪引いてまうかぁ...』
「.....したいです、」
慌てて出た言葉はあまりに震えてしまったから、思わず俯いた。こんなに狭い傘の中でこの声が聞こえていないはずはない。それでも何も言わずに俯いている先輩の横顔にまた目を向けた。
早くなる鼓動で呼吸が震える。自分のスカートを握り締めて息を吸い込んだ。
「...デート、したい、...」
視線の先のピアスが光って、くるりと先輩が私の方を向いた。ふっと笑ってから空を見上げた先輩を盗み見て自分も空を見遣れば、雨はやんで雲の隙間から僅かに光が差していた。
『どこ行こか』
雨が降っていないのには気付いたはずなのに、また寄せられた肩が触れて胸が苦しい。目が合えば先輩が優しく笑って、その笑顔を独り占めする贅沢な時間に、息苦しくなる程に恋心が溢れ出した。
End.
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