euphoria


03


ノックもされず保健室のドアがカタリと音を立てた。静かにゆっくりとドアが開いたから溜息を吐く。私に気付かれないように、と思ってるらしい彼は、とんでもない遅さでドアを開いている。

『...せんせ♡』

ドアの隙間から半分覗く顔は視界に入っているけれど、顔はそちらに向けない。無視。

『...なーんでびっくりせぇへんのぉ』

開いたドアを今度はバンと音がする程豪快に閉めた忠義が保健室に入って来て私の傍の椅子に腰を下ろした。目を細めて睨むような視線を忠義に向けるけれど、『...んふ♡』とデレて笑うだけだから呆れて顔を手元の書類に戻した。

『せんせ、おなかがいたいです』

二時間前に来た時は『あたまがいたい』だった。昨日来た時は『突き指した』だった。その後もう一度来て『折れてるっぽい』。
頭をぶつけたり指を挟んだり転んだり足捻ったり、毎日彼はトラブルだらけ。

「はい、薬飲んで出てって」
『ひど!先生ひどない?出てって...?』

その声にも振り向かずにいたら、バシバシと私の肩や腕を叩くからもう一度鋭い視線を向けた。するとすぐに尖る唇。

「1日に何回も来るから!」
『お腹痛いからしゃあないやん!』

しゃあないしゃあないって毎日毎日。保健室利用者の名簿に“おおくらただよし”ばかりが増えていくから、こっちはバレないかとヒヤヒヤしてしまう。何度言っても『他にも毎日来る奴おるやろ』と聞き入れてくれないのだから。他の子はいいの。あなただから困るの。他の子と関係が違うのだから。

「もう本当に勘弁して...」
『先生おなかがいたいです』
「もー!」

バン、と机を叩いて立ち上がって忠義を振り返った。驚いたように目を丸くして私を見ていた忠義が、すぐにふにゃりと顔を緩める。

『...ちゅーしたら治るかも♡』

反省の色を微塵も見せないからただただ呆れて忠義を見ていた。

『ベッド使っていい?』
「...もう何でもいいよ...」
『添い寝してくれたら治るかも..♡』


End.

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