04
マンションの下から部屋を見上げてみれば、案の定部屋に電気がついていたから溜息を吐いた。先日貸したスペアキーを取り上げるのを忘れていたことに、さっき学校で気付いてから、今日は来ている気がしていた。
“...何してるんですか?”
授業中。保健室。私の肩を抱いた渋谷先生を押し退けて慌てて振り返れば、15cm程のドアの隙間から忠義が眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
「...大倉くん、どうしたの?」
『いや、こっちが聞きたいんすけど』
ちらりと渋谷先生に目を向ければ、俯いて含み笑いしているから睨むように目を細める。
『何してた思うん?』
ドヤ顔で忠義に言った渋谷先生に、やめてください、と言えば、忠義の視線は鋭くなる。
暇潰しに保健室にやって来た渋谷先生は、ソファーでふんぞり返ってインスタントコーヒーを飲みながら私に聞いた。
“男居るん?”
から始まった質問を曖昧に受け流していると、
“生徒やったりして”
とか言うもんだからドキリとしてしまった。はぐらかす私の肩を抱いて私を覗き込んだところに忠義が来るから、こっちはバレやしないかとヒヤヒヤしているのに。
『...渋谷先生と#name1#先生ってそういう関係なん?』
あからさまに怒気を含んだ声に動揺してじわりと背中に嫌な汗が滲む。
「...そんなわけないでしょ、」
『わからんで?...なぁ?』
同意を求めるように私を見た渋谷先生に更にきつい視線を向ける。
「だから、違うでしょ。やめてくださいって」
怒られているにも関わらず、渋谷先生は可笑しそうに笑いながら忠義に歩み寄り、背中をバシバシと力を込めて叩いて保健室から出て行った。
「...で、どうしたの、」
ドアの前に立ち尽くした忠義は、私の問い掛けに顔を上げると睨むように視線を向け、そのまま引き返して行ったのだ。
正直、学校で問い詰められたりせずに安心していた。なかなか嫉妬深くて扱いが難しくて困る。だから、あとで電話しなきゃ。実際渋谷先生とは何もないのだから。
...と思っていたら部屋に来ていたから、対処法を考える。とりあえず宥めて、早めに家に帰さないと。
玄関のドアを開けると、脱ぎ散らかされたスニーカーが目に入り、また溜息を零しながら揃える。部屋に上がってドアを開けると、膝を抱えてテレビを見ていた忠義が振り返りもせずに『おかえり』と言った。その短い言葉にさえトゲを感じたから思わず苦笑いで「ただいま」と返事をした。
『...今日泊まるから』
そんなに不機嫌にそんなこと言われても。
「...ちゃんと言ってきたの?」
『当たり前やろ』
とにかく不機嫌丸出しの忠義を残して、着替えのために隣の部屋のクローゼットを開ければ、いつの間にか忠義が部屋の入口に凭れて立っていたから驚いた。
「着替えるから向こう行ってて」
すると忠義が部屋に入って来て、Tシャツに袖を通した私の腕を掴んで引くから、ベッドに腰を下ろした。腕から手が離れないまま、目の前に立ち私を見下ろす忠義の唇が尖っている。
「...どうしたの」
どうした、なんて聞かなくてもわかっているけれど、気にする程の事ではないのだから、自分からは言わなかった。
『...最近セックスレスちゃう?』
「は?」
予想外の言葉に思わず間抜けな声が漏れた。見上げた忠義は拗ねたような顔で私を見ていたから、必死で記憶を辿る。
「先週したよ。...日曜...?」
『先週?先週ちゃうよ!土曜やから先々週!』
...細かいな...。たった1日違い。
けれどそんな事を言い返したって納得するわけがないのはわかっている。
「そうなんだ...そうかもね...」
私を睨むように見ていたその視線が、一瞬私の肩から胸あたりに落ちたから、思い出したようにTシャツに頭を通した。
『ちょっと待って、誰と間違ったん?』
「え?」
『日曜誰としたん?誰かとしたん?なぁ、ちょっと!』
肩を掴んで揺すられながら問い詰められて戸惑う。...若干面倒臭い。
これが学校じゃなくてよかったと心の底から思う。
「...一日間違えただけじゃん...」
『なぁ誰!渋谷先生なんやろ!』
「だから、違うって」
『...ちょっと!誤魔化すのやめて!』
怒っているのか駄々を捏ねているのか、もしくは拗ねているのか、よくわからない顔で詰め寄る忠義は、面倒臭いけれど、...やっぱり可愛いのだ。
思わず笑えば、ムッとした顔でベッドに押し付けられる。それなのに、睨むように私を見下ろすだけ。
「したいんじゃないの?」
『..............。』
黙ったまま目を逸らした忠義の視線が私にまた戻って来ると、今度は完全に拗ねた目をしていた。
『...したいけど』
「...私もしたいけど」
その一言で表情が変わってしまうんだから可愛くて仕方ない。少し嬉しそうに歪んだ口元は、まだ怒ってると言わんばかりにすぐに引き締められたけれど、触れた唇は優しかった。
キスを落とし、視線を合わせてもう一度唇が触れ、首筋に唇が落ちたと思ったら、そこに顔を埋めたまま体をぎゅっと抱き締めて忠義が動きを止めた。
『...嫌やった』
「...うん、ごめんね」
小さく呟いた忠義の頭を宥めるように撫でれば、安堵したように目を閉じた。首筋に触れた睫毛が擽ったくて身を捩れば、顔を上げた忠義は大人の男の目をして私を見つめた。
End.
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