euphoria


switch off!!


...今日、飲みに行くんじゃなかったのかな。なんで家に来たんだろう。

鏡の前で服を合わせている私をベッドに寝転がったまま章ちゃんが凝視している。冷たい目で。
鏡の中で目が合っても逸らさずにジトっと見つめるから、耐えかねて目を逸らす。

「...これ、」
『................。』
「......どう、?」
『...可愛いんちゃいますかぁ?』

...トゲがある。馬鹿にしたような口調に鏡の中の章ちゃんをちらりと見れば、ベッドの上をゴロゴロと転がりシーツに顔を埋めた。

「...これに、しようかな、...」
『...ふーん。それにするんやぁ?...へぇー』

...可愛いんちゃいますか、って自分で言ったくせに。
けど、今日は怒れない。章ちゃんが可愛い。

『......俺が選んで買うたやつやのに』

ぼそっと呟かれたその言葉に、とうとう頬が緩んだ。
けど、持っていたその服で口元を隠す。笑ったのがバレたらもっと機嫌を損ねてしまいそうだから。


今日は同窓会だ。章ちゃんと離れていた間の、高校の同窓会。
元々今日は誰かの誕生日とかで飲みに行くと聞いていたし、それが女の子だと知ったから、誘われてすぐに同窓会の参加を決めた。いつもみたいに溜息をつきながら待つより、楽しく過ごした方がいいに決まってる。

章ちゃんは最近、女の子がいる飲み会の帰りは必ず私の家に寄ったり泊まったりしてくれる。
章ちゃんには同窓会のことは言ってあったけれど、家に来て居ないのは困るから、今日は何時に帰るかわからないと一応言った。

...聞いてへんし。
不機嫌そうな表情と共に吐き出された低音に思わず苦笑い。
確かあの時は飲んだ帰りだった。素面の時に言っておくべきだったかな、と章ちゃんの後姿を見送りながら後悔したのが2時間前。
章ちゃんが連絡も無しに家に来たのは、10分前。



「...やっぱ、こっちにしよ」
『..............。』

鏡越しにベッドの上の章ちゃんを見れば、またゴロゴロと転がってちらり私を見た。

「こっちでどう?」
『......知らんしぃー』

完全に拗ね始めた。こんな章ちゃんは見たことがない。いつもの私達と真逆だ。
章ちゃんには悪いけど、正直嬉しい。
振り向くとすでにまたシーツに顔が埋まっていた。

「章ちゃん、何時から?」
『...............。』
「間に合うの?」
『......ここで待っとく』

顔を埋めたままだから、篭ったような小さな声が聞こえた。目を丸くして章ちゃんを見つめるけれど、そのまま動く気配はない。

「...え?」
『迎え行く。バイク、借りたから』
「...けど、飲み会...」
『#name1#のせいでそんな気分やなくなった』
「..............。」
『あほー』

服をクローゼットの中に掛けて、ベッドの前に立つ。子供みたいな憎まれ口を叩く章ちゃんの頭をポンポンと叩くけれど反応はない。

「......ヤキモチ?」
『そんなんちゃうしー』
「...あ、そう...」
『......心配なだけ』

顔を上げて起き上がった章ちゃんが無表情でベッドに座り直すと、ベッドの前に立つ私のお腹に顔を埋め腰に腕を回した。
笑いながら章ちゃんの頭を抱き締めて頭を撫でると、抵抗するようにふるふると頭を左右に振った。

「...じゃあ、行きも送ってもらっていい?」

腕が緩んで顔を上げた章ちゃんが睨むように私を見ながら立ち上がる。

『...調子乗んなや。#name1#のくせに』
「............。」
『......アホ』
「............。」
『しゃあないから送ったる』
「...ありがとう」
『その方が、...まだ時間、あるもんな?』

少し乱暴にぶつかった唇がなんだか妙に安心した。いつもよりきつく私を閉じ込める腕も、深く絡みつく舌も、上がる息も、余裕の無さを感じて愛されているんだと、また実感出来たから。


End.

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