Don't you dare!!
『おはようございます』
『あ、おはようございまーす。あれー、青木さん、雰囲気変わりましたねー』
『髪の色ちょっと変えたの!よく気付いたねー』
『気付きますよー。毎日のように会ってるしー!』
いいな、羨ましい。
毎日のように会ってるなんて。
私なんて、彼に会うのは10日ぶりだ。
スタイリストと言ってもまだ雑用だし、毎日現場に来られるわけではない。その日の朝に現場に行けるかどうかがわかるから、毎日その瞬間は祈るような気持ちでいるくらいだ。
『おはようございます』
隆平くんの後ろから声を掛けると、くるりと振り向いた。
『おはようございます!』
ふにゃりと笑った隆平くんの顔を見て笑みが溢れた。久し振りに見た笑顔だ。笑顔どころか、本当は会えただけで十分嬉しい。
けれど、すぐに私をじっと見つめたまま静止した。その後周りをキョロキョロと見回してから、私の服の肩の部分を摘んで服を直した。
『...#name1#、ちょ』
『マルー!はよこっち!』
『...っはい、!』
一度私を振り返ってから、慌てて錦戸さんの後を追って行った隆平くんを見て首を傾げた。確かに今、何か言い掛けたから。
鏡に映る自分を見ても、おかしなところはないと思うけど。
暫くしてから衣装合わせが始まり、安田さんの後ろで衣装を持って立っていると隆平くんと目が合った。
何だか妙に困ったような顔をしていて、口をパクパクさせて何か訴えているように見える。けれど、あまりじっと見ているわけにもいかないから、「わかんないよ」と言う意味で首を傾げて目を逸らし、安田さんに衣装を渡した。
鏡越しに私と隆平くんの方を見た安田さんが含み笑いしていたから、苦笑いで誤魔化す。
『はい。これでお願いしまーす』
『わかりました。じゃああとこれ付けて!』
「あ、はい」
私にアクセを渡して大倉さんの所へ移動した先輩を見送って、安田さんが小声で話し掛けた。
『マルなー、心配してんねんで。めっちゃウケる!』
何を心配?と聞こうとしたところに先輩が戻って来て、二人共口を閉じた。
何事もなかったように話している安田さんから隆平くんに視線を移すとたまにチラチラと私を見ている。
なんだろう。ますます不思議だ。
お昼を挟んでも隆平くんと話せる機会もなく、安田さんは何だかあっちで盛り上がっているから、聞くのは諦めた。
付き合い始めてからも、こんなに目が合うのは初めてだ。
心配って、なんだろう。
フィッティングが終わり小物をダンボールに詰めて運んでいると、突然腕を掴まれ驚いてダンボールを落とした。
すると、手を掴まれたままダンボールと一緒に近くのリハ室に引き摺り込まれて、ドアの鍵が掛けられた。
「...び、っくりした、」
『もー、#name1#!』
「...はい」
『もー!あかん!あかんよ!そんなん絶対あかん!』
何だかとっても怒っている、というか、荒れている隆平くんが私の肩を掴んで揺する。
こんな彼を見るのは初めてだ。
「...なにが、」
『...コレ!...もー...ほんまにあかん、』
「...だから、何が、」
私を指差してコレコレと言っているけれど、全然意味がわからず首を傾げる。
苛立ったように手を引っ張られて大きな鏡の前に行くと、隆平くんが私の胸元を指差した。
『ほら、もー!#name1#はわからんかもしれんけど!上から見えてまうねん!...その、谷間、が...』
「...え、」
『章ちゃんはちっちゃいから見えんかもしれんで?でもな、俺から見えんねんから、見える人いっぱい居るやん!...あかんやろー...』
胸元を少し上げながら隆平くんの落胆ぶりを見て、嬉しくて少し笑ってしまった。そんなことを朝からずっと気にしてくれていたなんて。
ゆっくりと包み込むように抱き締められて、隆平くんが私の首筋に顔を埋めた。
『...めっちゃ可愛いねんで?めっちゃいいんやけど、』
「...うん?」
『...その服、俺の前以外で着るの、禁止』
「...はーい、」
『あとな、あんまりここ、見えるやつも、...嫌やなぁ、』
「...気をつけます、」
離れていった隆平くんが、入口に置かれた袋から取り出したのは、この前買ったばかりだと言っていた薄手のパーカーだ。
それを広げて私の背中へ回し、肩にパーカーを掛けられたから、袖を通した。
『まだ一回も着てへんから、俺のやてわかれへんわ』
「...うん」
あの時も、こうやってパーカーを掛けてくれたなぁ、なんて思って少しだけ照れくさくなった。
『...もう少しで終わるやんろ?...ちょっとだけ、着とってや。...終わるまででええから、』
ジッパーを上げながら眉を下げて言ったその可愛らしいお願いに思わず笑うと、パーカーを掴んだままドンと壁に押し付けられた。
『...こっちは真剣やねんで、笑ろてる場合ちゃうやん』
「...ごめん、ね?」
『...許さへんよ』
ぶつかるように唇が塞がれた。頭の後ろに添えられた手は、私の髪をくしゃりと力を込めて握る。
絡められた舌が震えていたから、隆平くんの余裕の無さが伝わって、胸が高鳴った。
End.
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