euphoria


ぼくたちだけの天国


明後日は章大の誕生日。
プレゼント、まだ決まってない。
悩むなぁ。やっぱりアクセかな。
でも、私が選んだやつとか、つけてくれるかな...。センスないし...鼻で笑われたりしちゃいそう。

『そんなん自分で選んだらええやん』
「...だからそれが自信ないから聞いてるんです、」
『大丈夫やって!章ちゃん意外と優しいで?#name1#ちゃんには冷たいかもしれんけど!大丈夫!』

思い切って錦戸くんに相談してみたけど、なんの役にも立たなかった。しかも、そんな慰めいらないんですけど。さらっと失礼なこと言うし。大丈夫って何。

『あ、ええこと教えたるわ』

錦戸くんの耳打ちに少しテンションが上がった。いいこと聞いた。これは絶対。


教室に戻ると章大が机に倒れていたから席についてちらりと見たら、パチりと目を開けて私を見た。

『...なぁ。明後日さ』
「え、...うん」
『泊まりに来る?』
「え?」
『家、誰も居らんから』

ドキッとした。
泊まるってことは...友達のとこ泊まるねーとか言って嘘つくってことよね。そりゃ、えっちとかはもうしてるけど、なんか親に内緒で外泊って響きが、悪いことするみたいでドキドキする。

『...またエロいこと考えてるやろ。顔真っ赤』
「ち、違うよ!」
『じゃあなんやねん』
「...泊まりたい、かな、」
『...わかった』

それだけ言って立ち上がり教室を出て行った章大を見ながら、かなりのグッドタイミングに頬が緩んだ。


プレゼントも用意した。友達に口裏合わせをお願いした。スケジュールも把握済み。バッチリ!
喜ぶかどうかなんてわからない。ていうか、喜んでも顔に出さないからわからないし。
ただ、一生に何度もある誕生日の中で、一緒に過ごす18歳の誕生日をずっと覚えていてくれたらいいのに。

10日、日付が変わる前に、章大に電話を掛けた。誰かに先越されないように。
長いコールの後、プツ、と音がして聞こえた声が、何だか眠たそうだ。

「...寝てた?」
『寝てへん』
「...あ、今ちょうど、...誕生日おめでとう!」
『...おん』
「...えっ、と、」
『............。』
「...抱負を、」
『......頑張ります』
「...あ、そう、...じゃ、おやす」
『...明日、楽しみやな』
「...うん、」
『アリバイ工作、しっかりな』
「...大丈夫」
『おやすみ』
「...おやすみ、」

ブツっと切れた携帯を耳に当てたまま放心していた。
章大が、あんなこと言うなんて。
楽しみとか言ってくれるなんて、嬉しい。

興奮して寝られなかった。
ドキドキはベッドに入っても収まらなくて、明日の大きな期待が詰め込まれた小さなバッグを見るだけで、何だかすごく幸せな気分になっていた。


...どこで仕入れた情報だろう。
帰ろうとしたところで後輩の女子集団に呼ばれて廊下へ出て行った章大が、でかい声で『お誕生日おめでとうございまぁす!』と、みんなで作ったらしいクッキーを貰っている。

あーあ、私、彼女なのにみんなお構いなしなんだから。
ちょっと不貞腐れて横目で様子を伺っていると、驚いたことに章大の手がクッキーを突き返した。
何を言っているかはわからないけれど、私に向けるより爽やかな笑顔を女の子達に振りまきながら私を指さしている。
...きっと『彼女が居る』って、言ってくれたんだと思う。

最近は、本当に堂々と言ってくれるようになった。
急にそうなったから
「なんで?」と聞いたら、返ってきた答えがコレだった。
『言わんと彼女に見えへんやん』
...ごもっとも。

手を振りこちらへ歩いて来た章大と目が合うと、手を繋がれた。
いつもは、学校を出てからじゃないと繋いでくれないのに。
手を引かれながら繋がれた手を見ていたら、いつの間にか昇降口だった。怪訝な顔で章大が私を見ている。

『...何』
「...や、手...。珍しいなって、」
『...嫌なん?ほんなら離すで』
「あ、ちょっ、」

手を離して靴を履いた章大の手がポケットにおさまってしまったから、腕を掴んで力一杯引っ張る。

『どっちやねんな』
「...繋ぎます、」

少し笑った章大が再び私の手を取って、指を絡め、さっきとは違う恋人繋ぎをしたからドキッとした。
手を繋ぐだけで未だにドキドキしちゃって、家に泊まるとか大丈夫なんだろうか。

家の前まで送ってもらって手を振って別れた。
準備が出来たら来てと言われたけれど、何となくすぐに行くのも恥ずかしいから少し時間を潰した。

暫くして家に行ったら、章大がカレーを作っていたから隣に並んだ。
文句を言われながら野菜を切って、それでも章大は笑っていて、嬉しくて楽しくて仕方なかった。

夕食を食べ終えて章大の部屋に行くと、テーブルの上に見たことのある眼鏡が置かれていたのに気付いた。

「...あれ?これ、錦戸くんも持ってた?」
『...らしいで。今日、もろた 』
「...あ、だからか!」

章大がちらりと私を見てからベッドに座ったから、いつものように隣に腰を下ろした。...なんとなく、緊張する。

『...最近なんで急に亮と仲良くなってん』

章大が目を合わせず、明らかに不機嫌そうに言った。
...やばい。けど、今は言えない。

「...え!や、別に、仲良くはないよ、」
『...そ?毎日のように見るけどなぁ』
「...世間話?」

何度も頷きながら睨むように私を見た章大が、私の肩に腕を回した。

『俺には出来ひん“世間話”なんやな』
「え、」

違う、と言う前に押し倒された。私の体を跨いだ章大が顔の両脇に肘を付いて見下ろしている。
じっと見つめられて、何も言わないまま思いの外優しく唇が触れた。怒っているかと思ったけれど、優しい唇にほっとした。一度離れてから触れた唇の隙間から舌が割り込んできて、急に深く舌を絡めるから、章大の服の背中を握り締めた。

章大の片手が腰を撫でていて、愛撫するような手つきに変わったからドキッとした。
今から始めたら、間に合わないかもしれない。

「...ちょ、待っ、」
『...なん』
「...あの、ね、...ちょっと、行きたいとこあって、」
『なんで今やねん』
「...今日がいいの、」

私をじっと見つめていた章大が、目を逸らして無理矢理口の端を吊り上げて、私から降りた。鼻で笑うようにちらりと私を見る。

『...ほんとは嫌なだけちゃうの』
「...え?」
『何しに来てん。泊まる言うて、ヤらんわけないやろ』
「...そんな言い方、しないでよ、」
『..............。』
「シたいから呼んだの?」
『...帰れば?...嫌なんやったら』

顔を背けた章大の表情は見えないけれど、いつもよりも、ずっと冷たい声だった。

「...今更、帰れないよ、」
『............。』

ヤりたくて呼んだの?いつも冷たいけど、ドSだけど、そんなんじゃないと思ってたのに。なんでそんなこと言うの。

ベッドの下に降りて座った章大の背中を見ていたら涙が溢れてきたから、立てた膝に顔を埋めた。
こんなはずじゃなかった。最高の誕生日にするはずだった。

余裕を持って着くには、もう家を出なければいけない時間だ。...けど、このままじゃどうしようもない。
ごめんね、って言って、理由を話せばいい?...どうしよう。...話、聞いてくれるかな。

章大が立ち上がった気配がしたから、膝に埋めていた顔を少しだけ上げた。
ティッシュを何枚か取った章大が戻って来たと思ったら腕を掴まれて、顔を上げたところにティッシュを押し付けられた。ゴシゴシと乱暴に顔を拭われてゴミ箱にティッシュを投げ捨てた章大が、掴んだままの手を引いて部屋を出た。

「...どこ、行くの、」
『とりあえず靴履けや』

黙って靴を履いて外に出ると、私の家の方向に向かった。

「...しょうた、」
『..............。』

何も言わずに足早に歩くから、着いて行くのに精一杯だ。強制送還かと思ったら、私の家の前を通り過ぎてそのまま歩く。

あれ、ちょっと待って。
この道って...もしかして...。

私があそこに行く時だけ通る道を、今二人で歩いている。私が、今日二人で行きたかった場所へのこの道を、章大と歩くのは初めてだ。

“この前雨で中止になった隣町の花火な、章ちゃんの誕生日に延期になったんやって!”

錦戸くんが一昨日教えてくれたそれを、二人で見たかった。遠くにしか見えないけれど、一昨年、穴場だと知ったこの場所へ、章大を連れて来たいと思っていた。

少し高い丘の上に登った。
まだ怒っているみたいな章大の横顔を見ながら、ぎゅっと章大の手を握り締めた。

「...章大、...ごめんね、」
『...なにが』
「...私も、連れて来たかったんだよ、...ここに、」

前を見たままだった章大の顔が私に向いて、少し驚いたような表情で私を見ていた。

『...なんや、知っとったんか』

少し遠くに打ち上げられた花火の音に顔を上げた。何も話さずに、二人で手を繋いだまま花火を眺めていた。

『ヤりたいから呼ぶとか、んなわけないやろ。...このためや』
「...ごめんね、」

せっかく来たのに花火なんか見ずに、章大が私を抱き締めて首筋に顔を埋めた。その腕がぎゅっと私を締め付けたから、何だかごめんと言われてるみたいに感じた。

「綺麗だったね」
『...ん、』

たった一言交わしただけで他に言葉を交わすことなく、手を繋いで帰り道を歩いた。

部屋に戻ってすぐに、バッグを漁って小さな箱を取り出した。何だか急に恥ずかしくなって黙って箱を差し出すと、それを手にした章大が箱のロゴを見て目を丸くした。

「...錦戸くんに、しつこく聞いて、...章大、欲しがってたって、」

一度私を見た章大が箱をあけてリングを手にした。

「...あ、でもね、それ...サイズ一個しかなかったから、どっかに...合うかな...」
『...ん、大丈夫』

左手の中指にはめた指輪を、手を伸ばして私に見せた章大がじっと私を見た。

『#name1#は?こうてへんの?』
「うん。お揃いにしようかと思ったけど、お金ちょっとだけ足りなくて」
『...明日、行こ』
「え、」
『俺がこうたる。...薬指に、付けるやつ』

いきなりそんなこと言うから、ちょっとウルウルした。見られたくないから俯いていたら、章大が言った。

『喧嘩してめっちゃ最悪な誕生日やったし、...忘れられへん』
「...ごめんね」

章大がちょっと笑って、さっきみたいに私の顔にティッシュを押し付け目元を覆った。

『...嘘。...めっちゃ幸せ』

目を塞がれたまま落とされたキスに、幸せが溢れ出して章大の背中を抱き締めた。

2013.9.11

- 5 -

*前次#


ページ: