euphoria


幸せの寸法


『...まぁーたやってるなぁ』
「ヤス。ちょっとシメて来て」
『え、』
「あの女、ムカつく」
『あ、そっちなんや。丸やなくて、』

隣に座るヤスが、私のヤキモチに毎日笑っている。チョコレートを渡され、よしよしと頭を撫でながら宥められて餌付けされる。
チョコレートを口に含んで、ちょっと苛々が解消、はやっぱり無理みたい。

「りゅうへー。」
『んー?なにー?』
「バカ」
『...な、!...ちょ、#name1#!』
「...トイレ!ついて来ないでくださーい」

納得いかないような顔をした隆平が眉を下げて私を見ていた。
...だって、やっぱり隆平はモテていて。私が居てもお構い無しにみんな隆平に声を掛ける。隆平も『はいはーい!』と応える。

あれー。私って彼女じゃなかった?なんか、アレよね。特別な感じがしない。私ばっかり妬いてる。
こんなことを言うのはアレだけど、前は隆平の方が想いが大きい気がする、なんて思っていた。今は完全に、私の方が隆平にハマっている。

廊下から教室を覗くと、相変わず隆平がニコニコと女の子と話している。
急に後ろから頭を叩かれ、驚いて振り返ると亮が立っていた。

『#name1#!...あんな、これ』
「うん?何?」
『さっき貰てん。女の子に。せやけど甘過ぎて食われへんねん。せやから食うて!』
「やったー!」

口を開けると、チョコレートが塗られた食べかけのクッキーが口の中に放り込まれた。
亮が『めっちゃうまそうに食うな』と笑いながら、口元を指さした。

『付いてんで』
「取れた?」
『取れてへん』
「取れた?」
『ちゃう。もう少し右。...もーええわ』

亮の指が私の口元を拭った。ありがとう、と言うと、こちらこそ、と言って亮が背を向けた。
教室に入ると、すぐに隆平と目が合ったから驚いた。...やば、見られてた。

『亮ちゃんに何貰てたん?』
「妙に甘いクッキー。食べられなかったんだって」
『ええなぁ。うまかった?』
「うん」
『そか、よかったなぁ』

にっこり笑った隆平は、自分の席に戻って行った。
...あれ、普通。今の、見てたんだよね?何にも言わないの?ヤキモチとか、本当に全然妬かないんだね。なんかそれ、ちょっと寂しい。

『まるちゃーん!』

亮と同じのクラスの女の子が、座っていた隆平のイスにお尻をくっつけて自分も一緒に座ろうとしている。
...知ってる。あの子、隆平のこと狙ってるらしいって亮が言ってた。

立ち上がって隆平の席まで歩いた。その子のために立ち上がった隆平の腕に、後ろから自分の腕を絡ませて引いた。

「次、サボろ」
『...え、急やなぁ。...優ちゃん、俺行くわ!』

ムカつくけど、優ちゃんに頭を下げた。ちょっと冷たい目で見られているけれど、そんなの関係ない。
グイグイ引っ張って廊下を歩いていたら、隆平が聞いた。

『...なんか怒ってる?』
「怒ってないし」
『“ないし”がめっちゃ怒ってる感出てんで』
「そんなことないしー」

隆平が笑いながら私の腕をやんわりと離して、手を繋いだ。これだけでちょっと嬉しくて温かい気持ちになるから不思議だ。

屋上に着くと、今度は隆平が私の手を引いて端まで移動した。
手を離してフェンスにもたれた隆平は、ニコニコしながら両手を広げている。その腕の間にゆっくりと入り込むと、腰に腕が回り引き寄せられた。

優しく触れるだけのキスが降ってきて、目を閉じる間なく離れた。ちらりと隆平を見ると、さっきの笑顔は消えていて、真顔で私を見ていた。

『...なぁ、』
「...何?」
『友達が多いのはええ事や思うで』
「...は?」
『色んな人と仲良くするんは、めっちゃいい思うねん』

...それは、私のヤキモチに気付いた上で言ってるのかな。みんなと仲良くするのはしょうがないって、そういうこと?

『...せやけどな、...俺が、一番やんなぁ、?』
「え?」
『...かっこ悪いけどな、俺、...めっちゃヤキモチ妬きやねんな、きっと、』

隆平が私から目を逸らしてから、腰に回した腕の力をぎゅっと強めた。

『ほんまはさっき、亮ちゃんと何しとんねん!言いたかったくらい...あかんねん、モヤモヤして、』

...何それ。笑ってたくせに。そんなんじゃわかんないよ。

『章ちゃんだってそうやで?』
「...ヤスは、何にもしてないよ、」
『なぁ、言うて。俺が一番?』
「...当たり前、」
『ちゃんと言うてや』
「..............、」
『いつもどんだけ妬いてる思てんねん。男に触られたらあかんよ』

隆平だってそうじゃない!と出掛かっていた言葉は、嬉し過ぎて飲み込んでしまった。言ってしまったら、対等になってしまう。
隆平の方が、私より気持ちが大きかったと思いたいもん。

『言わへんの?...どっちにしろ言わへんなら、ずっと口塞いでまうよ?』

隆平を見上げたら、片手で頭を掴まれて唇が塞がれた。思わず背中に回した手でぎゅっと隆平の制服の裾を掴むと、益々息も出来ない程何度も角度を変えて舌を絡められた。

『...俺ばっかり好きみたいやんか』
「...ちがう、っ」
『...ほんなら、言うて。好き、言うてみて』
「...好き、」

その言葉に笑みを零した隆平が、両腕を背中に回して苦しいくらいに締め付けた。

『...ま、#name1#は一生勝たれへんわ。...俺のこの気持ち、#name1#に絶対負ける気せぇへんもん。ずっと』

隆平の唇が、また軽く触れて、ゆっくりと舌が侵入してきた。
今度はやんわりと絡められ、頭を撫でながら長い長いキスをした。

隆平はわかってない。
けど、今ので完全に私の気持ちの方が上回ったことは、言わないで幸せを噛み締める。


End.

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