幸せの法則
もう陽が落ちるのも早くなって、19時前だというのに街灯がなければ暗い。
夏は終わった。
終わったと思っていたのに。
『...暑いなぁ、』
「隆平手汗ヤバイ!」
『ごめんなぁ。離そか』
「大丈夫。半分私のだから!」
『んふ、』
暑いけど、手は離さない。
手を繋ぐだけで結構暑いけれど、触れていると幸せだという事実を知ってしまっているから、手を離せずにいる。
隆平がTシャツの胸元をパタパタと揺らしながら私を見て微笑む。微笑み返すと、視線が少しだけ下に下がって、隆平が顔を赤らめた。
本当にわかりやすい。
『...暑いのも、悪くないけどな』
「...今おっぱい見たでしょ」
『...見てへんよ!...や、見たわ、』
「あは、別にいいけど」
『え!』
「え?」
『...あ、そんなこと言うてまうんや、』
もう何度も体を重ねているのに、こういうところが私より確実にピュアだな、なんて思う。暗闇でもわかるくらい頬を染める隆平は、最強に愛しい生き物だ。
『アイスでも食う?』
「食う!」
目的を見つけると早い。
足早にコンビニに駆け込んでアイスのケースを覗き込む。アレでもないコレでもないと言いながら、涼みつつコンビニに居座ること10分。
『...暑、』
「すぐ溶けるよー」
『家まで無理やし、今開けよ』
コンビニの前で袋を破り、棒アイス片手に空いた手は指を絡める。
何だか妙に楽しくなって、一人頬を緩めた。
どんどん溶けて流れるアイスと格闘しながら、早々に食べ終えた隆平が笑いながら私を見ている。
『垂れそ』
「落ちるー!あー!」
繋いでいた手をぱっと離して、棒から滑り落ちたアイスを掌で受け止めた。
セーフ!と言って隆平が笑っている。
「ティッシュー!」
『持ってへんよ。#name1#は?』
「持ってないー!」
『とりあえず、手のやつ食べ。溶けてんで』
手に落としたアイスに舌を這わせたら、口を開けた隆平が私をガン見しているからなんとなく恥ずかしくなって、少し大きいアイスの塊を口の中へ押し込んだ。
「...そんな見られたら食べづらい」
『...食べ方エロいねん、』
「ただのアイスでしょ!」
『...そうなんやけど!』
また顔を赤らめた隆平の目が私の顔でピタリと止まったから首を傾げる。
急に近付いてきた隆平の顔に固まっていると、私の口の端を舐め上げた。
『ついてた』
息が掛かる距離で言われてドキッとした。すぐに今度は唇にキスが落とされた。味わうように私の唇を啄む隆平が、二人の間にあった私の手を掴んだ。
「あー!」
『え!......アウト、』
掴まれた拍子に棒に残っていたアイスが滑り落ちた。
...私の胸元に。
「...ティッシュ!」
『...だから、ないって、』
こうしている間にも、肌の上で溶かされたそれが服の中に流れ込む。
辺りを見回した隆平が、私の手をギュッと握った。
『...真っ暗やし、人居れへんな!』
「は?」
『こっち!』
手を引かれて入った公園で、水道が目に入ったから安心した。だけど水道を通り過ぎて茂みに入ったから怪訝な顔を向けると、ふにゃりと笑った隆平が私の胸元に舌を這わせた。
『綺麗にしたるから!』
「...水道!...あるのに、」
『勿体無いやんか。...いろんな意味で』
「...変態!」
『...な、!なんてこと言うねん!』
ほら、また赤くなっちゃって。
そんなに真っ赤になるなら、やらなきゃいいのに。
「...でも、...好き、」
『なんてー?』
呟くように小さな声で言ったそれが、隆平に聞こえていなくてよかった。隆平ほど顔には出ないけれど、負けないくらい恥ずかしがり屋だから、聞こえてたら恥ずかしくて死んじゃう。
胸元に這わされた舌が優しいキスに変わって、首筋から唇までゆっくりと上がってくる。唇の横へ、ちゅっと音を立ててキスをした隆平が、微笑んで私を見た。
『...めっちゃ嬉しかった。...俺も好きやで』
すぐに唇を塞がれて顔中に熱が集まるのを感じながら、恥ずかしくてどうしようもない感情を、隆平の服を握って耐えた。
けれど、キスの前に見せたあんな顔をしてくれるなら、たまに口に出してみるのも悪くない。
End.
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