POPSTALKER!!
玄関の鍵が開いていたからドキリとした。ゆっくりとドアを開いて中の様子を伺うと、...電気がついている。一旦ドアを締めてバクバクと鼓動する胸を押さえた。
まさか、空き巣?でも堂々と部屋に電気なんかつけるかな...。
もう一度静かにドアを開いてみると、楽しそうな鼻歌が聞こえて、同時に玄関に丁寧に揃えられたスニーカーが目に入る。見覚えのあるスニーカー。...うん、間違いない。
リビングのドアを開いてちらりと覗くと、味噌汁の香りと私のピンクのエプロンを身に付けた後姿が目に飛び込んできた。
『あ、おかえりー』
くるりと振り返った章ちゃんが私に気付いて満面の笑みを向ける。
「...た、だいま...?」
『なぁ、ちょ、見て見て!』
コンロの火を止めて鍋を掴むと、章ちゃんが私の前まできて鍋を差し出す。
『味噌汁作った!あとな、おかずもちょっと作ってみてんけど!』
「...う、うん、?」
『ご飯も炊いたんやで!』
「...ん、」
歯を見せて、いひひと笑い、くるりと背を向けてキッチンへ戻って行った章ちゃんの背中を眺めていた。
...全然把握出来ていない。今の状況が、まったく理解出来ない。
『はよ着替えて来たらぁ?一緒に食べよ!』
沢庵を切って摘み食いしながら私に目も向けず言う章ちゃん。切り終えると食器棚を開きアレコレ迷いなく食器を取り出し盛り付けていく。ただ立ち尽くしたままその異様な光景を呆然と見ていた。
「......章ちゃん、」
『んー?どした?...あ、あっちで食う?』
「...いや、...あ、うん...」
盛り付けした食器をトレーに乗せてリビングのテーブルに運び始めた章ちゃんに掛ける言葉を探してなんだか緊張してしまう。
思いの外豪華なメニューが並んだテーブルを見て満足気に笑い、戻って来た章ちゃんの腕を掴んだ。
「あのさ...」
『なになに?』
楽しそうに首を傾げて私に微笑むから、言葉に詰まる。でもこのままでいいはずがない。聞いておかなきゃいけない。
「どうやって家入った...?」
きょとんと私を見た章ちゃんが当たり前のように言った。
『鍵?』
「...なんで持ってんの...」
『あっこ、入ってたから持って帰った!』
「...どこ」
私の向こう側を指さすからその方向を追えば、視線はサイドボードに行き着いた。
『引出し!』
「...いつ?」
『この前来た時!』
きっとそれは一週間前に宅飲みした時のことを指しているんだろう。最後は2人きりになってドキドキして、でも期待したようなことは何もなくて、時間をかけて頑張ろう、と思っていた。
だからこんな事になるなんて思ってもみなかった。
だってこれじゃあ章ちゃんは...
「...あのさ、」
『あ、ちょ、魚焦げてまうから後にして!』
ストーカーだよ。
小走りでキッチンへ向かった章ちゃんが、焼けた魚を皿に乗せて私に見せつけあまりにも悪気のない顔で笑うから言葉を失った。
End.
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