euphoria


POPSTALKER!!2


ポストの中に郵便物がなかったから、嫌な予感はしていた。
...複雑な気分。本来喜ぶべきことなんだけど、素直に喜ぶ事が出来ないのは、正規のルートではないから。

『おかえりー』

自宅の玄関を開けると、奥からペタペタと足音をたてて章ちゃんが走ってきた。

「また来てたんだ...」

苦笑いを浮かべて章ちゃんを見るけれど、章ちゃんはにっこりと笑って頷く。私の手からバッグを奪うと先にリビングへと向かった。

章ちゃんはストーカーだ。私の部屋の鍵を勝手に持って帰って複製し、度々この部屋に上がっている。食材を買ってきて勝手に夕食も作ってくれるし、勝手に部屋も片付けてくれる。勝手にお風呂も沸かしてくれる。けれどそれが悪い事だとは思っていないみたいだからタチが悪い。

章ちゃんの事が好きだった。わりと長く片想いしていた。だから急にこんなことになって戸惑っている。
きっと章ちゃんは私のことが好きだ。...だけど、告白されたわけでもなくこんなことって、...

『なぁなぁ』

はっとして章ちゃんに目を遣ると、ダイニングのテーブルに頬杖をついて私を見つめていた。

『昼間の人誰ぇ?』

一瞬頭の中が真っ白になった。
昼間は仕事をしていたし、章ちゃんには会っていないのに。

「...え」

その意味を理解し始めて、背中がゾワゾワと粟立つ。

『一緒にランチしてた人ー』
「...なんで知ってるの」
『お昼は外で食べてる言うてたからー』

...言ったよ、確かに、だいぶ前に言った。お弁当?と聞かれたから、外に食べに出てるよって、言ったけど。
来たってこと?見てたってこと?どこで?なんで?

「......上司、」
『へーそうなんやぁ』

早くなった鼓動を抑えるように息を吐き出すと、章ちゃんが俯いて少し眉を下げ寂しそうな顔をするからまたドキリとする。

...ヤキモチ?なんか、よくわからない。...怖いよ。嬉しいけど、怖い。でもそんな悲しい顔されたら、どうしていいかわからない。

ぱっと顔を上げて私を見た章ちゃんは、一瞬で笑顔を作って私を見つめた。

『正直、あの人はお前に似合わへんな♡』

満面の笑みでそう言って立ち上がった章ちゃんは、上着を掴んで玄関へと向かった。

『あ、冷蔵庫にシュークリームあるで♡』

...間延びした喋り方も愛らしい表情も、憎みきれないし突き放しきれない。
ストーカーになった愛しい人は、今日も勝手に作った合鍵で玄関の鍵を閉めて出て行った。


End.

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