愛鍵
『おかえり』
「............ただいま、」
家に帰ると、ソファーに転がってテレビを見ている亮が、顔だけを動かして私を見た。すぐにテレビに戻った視線を確認して、小さく溜息を落とした。
寝室で部屋着に着替えていると、リビングから亮が呼ぶ声が聞こえた。
『#name1#ー、腹減ったー』
「..................、」
『おい、無視すんなや』
「...なんか買ってきたら?」
『なんでやねん。なんか作ってや』
「......オムライス、」
『玉葱人参抜きでな』
「...そこは簡単でいいね、」
キッチンに立つと妙に視線を感じたけれど、目を合わせなかった。色々と、考えている。
...今日こそははっきりさせなければいけない。
ソファーの前のローテーブルにオムライスとグラスに注いだ水を置いたら、亮がソファーからラグに滑り降りてきた。
『ありがと。いただきます』
「..............。」
『..............。』
「..............。」
『......めっちゃ食いにくいやんけ、』
「...なぜ合鍵を持ってるんでしょうか」
『...えっ!』
えっ!って何!
一週間前、私が帰宅すると亮が家に居た。びっくりして慌てて聞いた。
「な、な、何で居るの、!」
『...鍵、あいてた』
そっか、締め忘れちゃったか。危ない危ない、気を付けなきゃ。
...と思ったけど。3日前にも居た。
そんなに何回も忘れるってことある?
私達は付き合っているわけではない。
ただの友達、というか、何と言うか。
最近家によく来ていたから、一緒にいる時間が長くて、ちょっと好きになっちゃってるよね、私。
何しに来ているのかはよくわからない。でも多分、好き、なのかな。私のこと。...そうであって欲しい。
「なんでだろう、錦戸さん」
『...作ったから?』
「いつ」
『....一週間ぐらい前?』
「勝手に?」
『寝てたから、...借りて?』
「何でよ、」
『...鍵持ってたら、いつでも来れるやん、』
...だから、いつでも来れるようにしたいのが何でかって聞いてるのに。
私の顔は見ずに、オムライスを見つめながら気まずそうにチビチビとスプーンを口に運んでいる亮は、何だか子供みたいだ。
「...だから、なんで、」
言い掛けたところで亮の目が動いて、上目遣いで私を見た。
その目とは逆に威圧感のある声で亮が言った。
『...好きやから?』
「...なんで怒ってんの、」
『...怒ってへんわ。...なんで怒らへんの、』
「...え?」
『...鍵、作ったこと、』
「...好きだから。...でもなんで勝手に?」
『好きやから言うてるやろ!』
「...だから!なんで怒るのよ!」
『こんな小っ恥ずかしいこと、はにかみながら言えるわけないやろ!』
「...............、」
オムライスを掻き込んで水で流し込んだ亮が『ごちそうさま!』と若干キレ気味に言ったから、思わず笑った。
照れ隠しなのだと思ったら、物凄く可愛いから。
笑った私を睨むように見た亮が、いきなり私をガバっと抱き締めたから驚いた。
最後に見た顔は怒っていたのに、聞こえてきたのは『んふふっ、』という笑い声だった。亮の顔は私の首筋に埋められているから見ることは出来ない。
『...あかん、めっちゃ嬉しい』
「.......あたしも」
『...#name1#、全然気付かへんのな』
言われて見てみれば、私のキーケースの中に見知らぬ鍵がひとつ付いていた。亮の部屋の鍵だ。
本当はとっくに、両想いになっていたということ。
End.
- 21 -
*前次#
ページ: