euphoria


愛して、溶かして


ただ私を緩く抱いたまま、章大は黙っていた。私が話し始めると小さく相槌を打ち、言葉に詰まると優しく背中を叩きながら、黙って聞いていた。

不思議と涙は出なかった。章大の腕の中に抱かれて、少し落ち着いたのかもしれない。
顔を上げれば、章大が困ったように笑って私を見た。その表情を見てしまったら、ここに来たことが正解だったのか、わからなくなる。

章大から目を逸らして俯いた。
衝動的にここに来てしまって、行くところがないなんて言われて、章大はどう感じただろうか。

『...じゃあさ、』

雰囲気を変えるような章大の明るい声色に、俯いたまま頷けば、髪を撫でられて伺うように顔を上げる。

『今日は俺のもんやな』

顔を近付けて優しい笑みを浮かべたその表情に安堵する。また抱き寄せられて背中をぽんぽんと叩きながら肩に章大の顎が乗ると、耳元でふふ、と笑う声がした。



ワインを口に含みコクリと喉に通せば、視界が僅かに揺れた。すると手にしていたワイングラスを奪われ、章大を見遣る。

『明日つらくなるで?そろそろやめとこ』

代わりに渡されたウーロン茶のペットボトルを開けずにいると、それを手から抜き取られ章大がキャップを開ける。その隙に、テーブルに置かれたさっき取り上げられたグラスを掴みワインを飲み干した。またグラスと引き換えにペットボトルを押し付けられ、章大が笑う。

『もうあかんて』

拗ねたように唇を尖らせてみれば、章大が『子供みたいやな』とまた笑う。だからわざと睨むように視線を向けると、章大の手が頭を撫でた。

すると何故かふと浮かんだ、あの人の顔。
やっぱりアルコールくらいで忘れることは出来なかった。...当たり前だ。まだ何も解決していないし、これからのことだって何も考えていないのだから。

章大の手が私の頭を包むから視線を合わせると、一瞬切なげな色をした目が私を映した。すぐに優しい笑みが浮かんだけれど、心臓が煩くなる。

『...俺が忘れさしたるよ』

優しい声色は僅かに掠れて、妙に切なく響く。重ねられた熱を持った唇は、私の吐息ごと唇を奪い、深く口付けた。



荒々しく高められ、呼吸もままならない程に息が上がる。私の中にある指は、私を追い詰めるように掻き回し乱していく。大きな快楽の波に飲み込まれてしまいそうで思わず章大の手を掴んだ。すると逆の手にその手を取られて外され、中の指をぐっと奥に押し込んで掻き回され、お腹の奥から甘い痺れに襲われた。

張り付く様な喉の渇きの中、荒い呼吸を繰り返していると、体をくるりと反転させられお腹に腕を回して膝を立てるように引き上げられた。達したばかりの震える足で体を支えると、すぐに後ろから章大が入ってきて思わず声が漏れた。絶頂の余韻が残るそこを容赦無く抉られ、崩れ落ちそうになる体を章大の腕が引き上げる。シーツを掴み、顔を埋め声を押し殺すけれど、またすぐに絶頂が迫り体が強ばる。一度びくりと腰が跳ねると、章大が律動を緩めゆっくりと腰を揺らした。

立て続けに達した体は、支えられなければすぐに崩れてしまう程に震えて力が入らない。
するとすぐに章大が律動を再開させるから、後ろに手を伸ばし震える手で私の腰を掴む章大の手を掴んだ。けれど律動は止まず、強過ぎる快感に声も出せず、訴えるように首を横に振る。

片腕を腹部に回したまま背中にキスを落とされそこに舌が這えば、ぞくりと肌が粟立って快感を煽る。そのまま覆い被さるように体重を掛けられ、逃げようとする体は章大の体でベッドに押さえ付けられた。唇を噛み締めて快感に耐えながら、章大の荒い呼吸の中に呟くように聞こえる私の名前に愛しさが込み上げる。

何度目かわからない絶頂に声にならない声が漏れた。背後からきつく抱き締められて背中に熱い吐息が掛かり、章大の熱を中に感じる。

ふたつの早い鼓動の中目を閉じると、今日交わってから一度も見ていない章大の顔が、瞼の裏に浮かんだ。



『#name1#?』

控え目な声に重い瞼をゆっくりと上げれば、薄暗い部屋の中、章大が私を覗き込んでいた。

どの位時間が経ったのだろう。
いつ眠ってしまったのかも覚えていない。
まだアルコールが残っているのか、眩暈のように僅かに視界が揺れて瞬きを繰り返す。
やっと章大に視線を合わせれば、章大の手が柔らかく髪を撫でた。

『9時やけど。どうする?』

その言葉で一気に昼間の光景が蘇って口を噤み、章大から目を逸らした。
するとまた目を合わせるように優しい表情で私を覗き込む。

『今日はここ居ったらええよ』

その言葉に安堵した。帰った方がいい、と言われるかもしれないと思ったから。
目を逸らし、唇を噛んで頷くと、優しい手がぽん、と頭に置かれた。章大に向かって手を伸ばすと、ベッドに入って来て私を抱き寄せる。胸元に顔を埋めると、さっきよりもゆっくりと鼓動する心臓の音に安心して目を閉じた。

労わるみたいに腰を撫でる手は、行為中とは比べ物にならないくらい優しくて、それが少し切ない。
章大はどんな想いで私を抱いたんだろう。
私が章大の想いを知ることは出来ない。...彼を苦しめていることはないだろうか。
こうして私が肌を重ねて幸福感で満たされるように、章大も同じだったらいい。全て忘れてただ何も考えずに愛し合えたら、このままずっと、ふたりで居られるのに。




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