スポドリ風味の治療薬
『...“なんで”て何?』
なんやその顔。睨んどるやないか。俺の事好きや言うといてなんやねんその顔。
『理由教えてよ』
大袈裟に溜息を吐き出してみせればますますきつくなる視線。
その女の向こう側の柱に、上から下まで綺麗に半分だけ隠れてこっちを見ているマルが目に入った。
見えてるっちゅーねん。隠れる気あれへんやろ。
手で追い払うような仕草をして目の前の女に視線を移す。
じっと俺を見て待っているけれど、付き合えないものは付き合えないのに、理由なんか聞いてどうするつもりなのか。
知らなくてもいい事なんて、この世の中に数え切れない程あるというのに。
「ねぇ」
『タイプちゃうねんて』
髪をグリグリに巻いた女はただ俺を何も言わずに見つめていた。眉毛はぴくりと動いたけれど。
『な?言わん方がよかったやろ?だから...痛っ!』
完全に壁から出て来て後ろを向いているマルが気になってちょっと余所見しているうちに、耳元で大きな音が聞こえると共に左頬に衝撃が走った。思わず女の頭を音がする程にしばき返すと『最低』という言葉が返ってきたから、もう一発殴ろうかと思ったところでヨコが俺の腕を引いた。
『女の子に手ぇ上げたらあかん』
『見てたやろ?あいつが先に殴ったんや!』
苦笑いのヨコが俺に背を向けて階段を上る。そのあとを追いながら、苛立って力の入る拳を自分の腿に打ち付けて堪えた。
『どうせ失言したんやろ』
『してへんがな!なんで付き合われへんねん言うからタイプちゃうねん言うただけやって!』
呆れたような顔を見せるヨコにも苛立って、大きく舌打ちをかましながら教室に入れば、#name1#が俺をちらりと見て目を逸らした。
『なんやねん』
「...何が」
『今見とったやろ』
「ちょっと目合っただけじゃない...」
後から肩を掴まれヨコが俺を無理矢理引き摺るように席まで移動させる。ちらりと#name1#に目を向ければ、ペンを持ったまま俯いていた。
『あいつに絡んでどうすんねん...ヤクザちゃうねんから...』
机を一度ドン、と叩くと、教室中の視線が俺に集まる。呆れ顔で離れて行ったヨコを横目にもう一度#name1#に視線を向ける。
俺を見ているその目は、いつもの文句を言いたそうな生意気な目ではなかった。
...なんやねん。何見とんねん。
さっきの、言い過ぎたんか?いや、でもあんなんいつものことやろ。
潤んでいるようにも見えるあいつの目が俺から逸れたから、気持ちを鎮めるように大きく息を吸い込む。頬はジンジンと痛むから、やっぱり苛立って髪を掻き毟った。窓の方を向いて机に突っ伏すと、朝は晴れていた空がどんよりとした雲に覆われていたから苛立ちを煽る。視界の端に映ったヨコも、女と顔を寄せ合ってイチャついてるから瞼を閉じて全てをシャットアウトした。
痛む頬に硬いものが当たって飛び起きた。俺の横に立つ#name1#に『なにすんねん』と苛立ちをぶつけると、手に持っていたスポーツドリンクを差し出された。
『...んやねん』
「...ほっぺた、赤いから」
『あ?』
「...冷やしなよ」
受け取らない俺の机にドン、とペットボトルを置いて#name1#が俺に背を向けた。
...なんやねん、こいつ。
『...ありがとうな』
足を止めた#name1#の横顔を見れば、若干耳が赤く染まって見えた。
何照れとんねん。普段せぇへんことするからやろ。アホ。
「...今度奢ってね」
また歩き出したその横顔を見ながら頬に冷たいペットボトルをくっつけた。席に座ったあいつが気まずそうに俺をちらりと見たから、普段と違うその態度に少し気分が良くなる。
気付けば頬の痛みも苛立ちもマシになっていて、ふっと笑いを零して開けたスポーツドリンクを一気に喉の奥に流し込んだ。
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