euphoria


11th Night.A


「......行かないで、...」

頭の中が真っ白になった。
暫くすると、何か訴えるように手の中のTシャツがもう一度引かれて次第に頭がクリアになる。
俯いた顔を上げてちらりと俺を見た#name1#の目から落ちた涙が頬を伝ったからそれを目で追う。そして、また俯いてしまった#name1#を見ながら、携帯を耳に当てた。

『......ごめん』

俺の名前をずっと呼んでいたらしい大倉に言った。

『...やっぱ、無理やわ、』

大倉の抗議の声を遮って電話を切り、携帯をソファーへと放った。顔を上げた#name1#に手を伸ばし引き寄せて抱き締め、自分の首筋に顔を押し付けるように体ごと全て包み込んだ。昂る感情に任せて力を込めると、#name1#の胸から俺よりも早い鼓動を感じてたまらなく愛しくなる。

体を少し離して覗き込むと、#name1#の目が俺を見つめた。
...勘違いだなんて思いたくない。その目は、真っ直ぐに俺を見ているから。
髪を撫でて見つめた唇に近付く。

...キスをしたら、もう戻れない。
一瞬頭を過ぎったそれに躊躇って#name1#を見た。
...けれど、このままでは進めない。
手を添えた#name1#の頭を引き寄せてキスをした。

離れた唇から吐き出した息が震える。俯いた#name1#の顔を覗き込むように角度を変えてまた唇に触れた。もう戻れないのだから、後悔はしないように。

これが夢なのか現実なのかわからない。胸の鼓動は早くて息が荒い。ただ、今までの想いを全て込めるように、必死で#name1#の唇に触れていた。
...もう、戻れない。誰にも話すことも出来ない。だから、進むしかない。

『...言われへんようになってもうたな』

額を合わせれば、震えていた。自分なのか#name1#なのかわからない。緊張しているのは、きっと二人共同じだから。
ゆっくり背中の手を緩め、#name1#の背中に片手を添えて寝室へ向かう。
先のことなんて考えたくない。考えている余裕なんて今の俺にはない。
ふらふらと歩く#name1#に布団を捲くってベッドへ入るよう促せば、横になった#name1#の目が俺に向けられた。
ぎこちないであろう笑顔を向けて自分もベッドへ入ると、ベッドの中で向かい合って再びその体を抱き締めた。

何か言いたそうに俺を見上げた#name1#の唇を攫いキスをして、何度も何度もキスを繰り返す。
押し付けるように唇を合わせて肩を押し、仰向けになった#name1#の体を跨いで見つめた。

『...なぁ、#name1#...』

呼び掛けながら髪を撫でると不安そうに俺を見るから、宥めるようにより優しく髪に触れてやる。

『...してまおか』

...不安なのは、俺の方だった。

『もっと後ろめたくなるようなこと、...してまおか』

進むため、だったはずなのに、これが最後のような気がしていた。俺を見つめる#name1#の目に期待したはずだったのに、諦めにも似た感情が胸を締め付けていた。息が苦しくて目頭が熱くなるけれど、歯を食いしばって#name1#の言葉を待った。

#name1#が、俺から目を逸らし小さく頷いた。
嬉しいのか何なのか、正直よくわからなかった。何だか泣き出してしまいそうで、#name1#の髪をくしゃりと掴みすぐに唇を塞いだ。唇に舌を這わせば誘い込むように唇が開いたから、柔らかく舌を絡ませる。息をする間も惜しい程夢中でキスをした。たまに漏れる荒い呼吸と色気が混ざる吐息にたまらなく興奮する。

離れた唇で#name1#の首筋にキスを落とすと、震えていたのは自分だったことに気付く。舌でなぞるように首筋を愛撫してやれば、#name1#の手が俺の腰に触れたからドキリとした。

#name1#のパーカーのファスナーをゆっくりと下ろしながら胸元にキスを落とす。裾から手を入れて素肌に触れれば焦るような感情が押し寄せるから、出来るだけゆっくりと、酷くしてしまわないようにその体を高める。

触れる度に徐々に息が上がる#name1#を、そうさせているのは自分だという事実に感情が昂る。見たことのない色気が溢れる表情のせいで、めちゃくちゃにしていまいたい衝動に駆られた。

焦る気持ちは押さえ付けて、指と唇でゆっくりと時間を掛けて愛撫してやれば、時折小さく声を漏らしながら俺を見る。その目の中には、俺だけが映っていた。
今#name1#は、紛れもなく俺のものだ。

リビングから聞こえる着信音でピタリと手を止めた。けれど、今はどうでもいい。
#name1#の中を高めていた指を引き抜くと、一瞬不安そうな表情を浮かべたから優しくキスを落とす。
そして#name1#の間に体を割り込ませて上から胸をぴたりと密着させた。

『...入るで?』

息を上げた#name1#が俺を見つめるから胸が高鳴る。今まで何度もセックスをしてきたけれど、こんなに緊張することは一度もなかったのに。

少し開いたその唇にキスを落とした。少し震えている#name1#の唇に気付かない振りをして舌を絡める。
入口に充てがうとピクリと揺れた#name1#の腰を撫でながら体を起こす。
きっと、#name1#も緊張している。

#name1#を見つめ先端を中へゆっくり沈めた。絡みつくように俺を飲み込むそこに、#name1#の腰を引き寄せながら息を詰めて埋め込む。奥まで腰を進めると#name1#の中がひくりと疼いたから、吐き出した吐息と共に思わず小さく声が漏れた。

目を合わせてゆっくりとした律動を始めると#name1#が目を閉じて甘い吐息を漏らす。耐えるようにきつく閉じた目と、シーツを握り締めた手。その手に触れ指を絡めながら引き寄せると、より深く繋がって#name1#が声を漏らした。
味わうようにゆっくりと腰を揺らせば身震いするような快楽に包まれて、制御を失いそうな体を抑止するために#name1#の手を強く握った。

次第に律動を早めれば、吐息に甘く小さな声が継続的に混じるようになってきたから、嬉しくて幸せで#name1#を見つめて微笑んだ。

不意に奥へぐっと押し付けて高い声を上げた#name1#が、俺の手を強く握り締めた。それに反応して#name1#の中でそこがひくりと膨む。
耐え切れず体を倒してキスをすると、舌を絡めながらゆっくりと、奥深くまで進める。

肩を抱いて#name1#の髪を乱しながら見つめると、俺に向けられた真っ直ぐな視線。
...勘違いしてしまいそうになる。切な気なその目は、誰を見ているんだろう。俺を通り越して、誰かを見ているのか。...けれど俺を見据えるその目には、想いが溢れているように見えてしまう。

#name1#の目が固く閉じられ、快楽に歪んだその顔が俺を更に煽るから律動を早めた。

『...#name1#、っ...』

目を開けて俺をまた見つめたその瞳を見て、俺の中に浮かんだ『愛してる』は声にすることが出来ないまま飲み込んだ。ただ見つめ合いながら、漏れるのは荒い吐息だけ。抑えつけた感情に下唇を噛み締めて堪えると、#name1#の腕が首に回された。

「...章大...っ、」

その腕に引き寄せられ#name1#の顔が首筋に埋められた。思わず動きを止めると昂った気持ちのせいで、#name1#の中で質量を増した。

...誰を見てんねん。誰のこと考えとんねん。...今は、俺しか見てへんやろ?俺のこと想ってるやんな?
...俺のこと、好きなんちゃうの...?

溢れそうな涙を耐えながら強く抱き締めた。歯を食いしばり#name1#の髪をくしゃりと握って、感情を押し殺した分、激しく#name1#を抱いた。

息を詰まらせたようにしがみつく#name1#の奥に何度もぶつける。荒い息を吐き出すと漏れた声に、一緒に涙まで浮かんで、気付かれないように腕で拭った。

『...#name1#っ、』

幸せだった。けれど苦しかった。
それでも捨て切れない希望に目頭が熱くて、胸の中も焼けるように熱い。#name1#の目から零れた涙が、俺のためだったらいい。

体を離すと背中から#name1#の腕が滑り落ちた。#name1#の中が次第にひくりと収縮して見つめた顔が快感に歪む。荒い呼吸を繰り返しながら時折甘い声を漏らし、震える#name1#の手が肩を抱く俺の手を掴んだ。その手を握り返すと、薄らと色付いた体がびくりと跳ねて更に強く俺の手を握り締めた。蠢くように俺を包み込む#name1#の中に想いをぶつけるように打ち付けて、震えるような呼吸と共に#name1#の下腹部に欲を吐き出した。

静かに#name1#の上に倒れ込むと、肌はまだ触れているのに切なさが募る。抱き締めるようにして首筋に顔を埋めると、思わずそこに吸い付いた。引き剥がされないから、交わった証を刻み込むようにますます強く吸い上げる。

今日だけは、#name1#は俺のものだった。

顔を上げると荒い呼吸の#name1#と目が合い、切なさを隠して無理矢理口の端を持ち上げるように笑った。

『...痕、ついてもうた』

小さく頷いた#name1#は、俺を見つめてから潤んだ瞳を逸らした。
その目がゆっくりと瞬きを繰り返す。今にも堕ちそうな#name1#から離れて俺が汚した体を拭いながら、ふわりと頭を撫でてやる。

『おやすみ』

微笑んだ俺を映してから#name1#の目が閉じられた。その瞼を見ていたら、全てが終わってしまったような寂しさに急激に支配され、その体を抱き寄せた。

...まだ、終わっていない。何も話していない。俺の腕の中で俺を見上げた#name1#の目の中に感じた何かの正体を知るまでは、諦めない。...諦めたくない。#name1#が口にしたのは、他の誰でもなく、確かに俺の名前だったんだから。

確かに幸せだったのに。
今も腕の中にある体温は心地良いのに。
諦めたくないと、思っているのに。
それでも俺の目から溢れ出す感情を止めることが出来ないのは何故だろう。
確かに今ここにある愛しい体を強く抱き締め、愛しい寝顔に願いを込めるようにキスを落とし、声を押し殺して涙を流した、第十一夜。




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