5th Night.
目を開けたら目の前に#name1#の寝顔があって朝から幸せな気分。#name1#の幸せそうなその寝顔も、俺と居るから、なんてことがあったらいいのに。
閉じられた瞼から伸びる長い睫毛、いつもより少し薄い眉、無防備な唇。その全てが愛おしくて思わず繋いだままの手に力を込めた。
するとぴくりと動いた瞼。
...あ、やば。起こしてもうた。
ゆっくりと目を開けた#name1#が顔の前にある繋いだ手をぼんやりと見つめて、これまたゆっくりと視線を上げて俺を見た。
『...びっくりしたぁ』
自分で起こしたくせに、まだ寝惚けている様子の#name1#に小さな声で誤魔化すように笑いながら言った。するとその目が泳いで、妙に照れ臭そうに俺から離れていく。
『おはよぉ』
「...はよ、」
『まだアラームなってへんよ』
「...ん」
#name1#が枕元の携帯へ視線を移すと、繋がれた手がぴくりと動いた。けれど、結局布団の中から伸ばした反対の手が携帯を掴んだから、それが嬉しくて顔が綻んでしまう。
携帯を置いた#name1#が俺をちらりと見て視線を外す。寝起きの顔が恥ずかしいのか、顔を半分布団に埋めている。
「...起きようかな」
『もう?』
「...うん」
#name1#の後ろ側にある壁掛け時計を見ると、#name1#が起きると言っていた時間の30分前だ。
少し寂しく感じながらも視線を#name1#に戻せば、昨夜のように何だか耳が赤い気がしてその耳を見つめる。
「まだ寝てていいよ」
『うん。そうするー』
ちょ、ほんまにその反応なんなん?意識してくれてるんちゃうか思てまうやん。...試してみたくなるやん。
#name1#が自分側の布団を捲ったけれど、握ったままの手は離さない。すると一瞬戸惑ったような顔をしてちらりと俺を見たから笑顔を向ける。少しだけ顔が赤く染まったように見えるのは、カーテンの向こうの太陽のせいだろうか。
「手」
『なに?』
「手、離して」
『嫌』
「............。」
『なんか寂しいやんー』
#name1#が軽く引いた手をぎゅっと掴んで笑った。
その顔、もうちょっと見せて欲しいねん。確信出来るくらいの反応、してくれへんかな。
#name1#が引いた手がするりと離れて行った。結局、いつだって曖昧なまま。
わざと拗ねたように唇を尖らせると、またちらりと戻った視線が伺うように俺を見た。だから笑って布団に包まるように寝返りを打っておやすみー、と言った。
背を向けた俺の後ろで少しの間動きを止めていた#name1#は、何を思っていただろう。恋人同士がするようなことを仕掛けたんだから、俺の気持ちを疑い始めただろうか。...それでもいい。#name1#の頭の中に俺が居る時間があるのなら。
小さく呟かれたおやすみ、の言葉。それを聞いたら何だか急に切なくなって布団の中で蹲り目を閉じた。
キッチンから香る朝食の匂いやメイク道具がカチャカチャとぶつかる音。今すぐに起きて#name1#の隣に行くことだって出来るけれど、一度贅沢をすれば欲が出てしまう気がする。そして何より、普段見ることのない#name1#のプライベートな部分を知れば知る程、自分のものだと錯覚してしまいそうでぐっと堪える。
#name1#の足音がぴたりと止まって、近くでバッグらしき物が壁にぶつかる音がして目を開けた。...気配がする。寝室を覗いていたのかもしれない。
そう思ったら、すぐにパタパタと遠ざかる足音を追い掛けるようにベッドから抜け出していた。
『いってらっしゃーい』
玄関で靴を履いてバッグを掴んだ#name1#にリビングのドアからヒラヒラと手を振った。俺を見て驚いたように丸くなった目が途轍もなく愛しい。
「いってきます、」
小さな声が返ってきて小さく手を振り返した#name1#は、放心したようにぼんやりと俺を見ていた。だからドアを開いて歩み寄る。
『いつでも呼んでええよ。来れるかはわからんけどさ。寂しなったら』
何だか妙に焦っていて変な言い回しになってしまった。
引き止めたかったのかもしれない。けれどそれは出来ないから、また来る約束をしたかったのかもしれない。寂しいのは、俺の方だ。
「...うん」
『ん、いってらっしゃい』
「...いってきます、」
うん、という返事に少なからず安心していると、#name1#が俺に頭を下げた。今度は俺が目を丸くしてそれを見る。すぐに背を向けて玄関の外へ出て行ってしまった#name1#の顔は見られなかったけれど、きっと#name1#なりのありがとうなのだと思うことにした。理由はどうであれ、俺を呼んでくれるならそれでいいんだ。
リビングに戻ってソファーに深く腰掛けた。幸せの中に時折顔を見せる負の感情。そんな感情は予想もしていなかった。#name1#と居ればただただ幸せなんだろうと、心のどこかで甘く見ていたのかもしれない。
...けど、どうしたらええねん。他に思い付かへんもん。一緒に居る以外、なんも思い付かへん。しゃあないやんか。
移動中、仕事の合間、大倉と話している時だって、意識はいつも手の中の携帯にあった。
携帯が震えるたびに期待しては溜息を吐いて、自分にもこんな女々しさがあったのかと嘲笑が漏れる。
今まで誘っていたのは俺ばかりだ。
寂しげな表情、泣きそうな顔。それでも#name1#が「ここに居て」と口に出すことはないし、自分から誘うこともない。もしかしたら#name1#は、ソフレという関係に罪悪感を抱いているのかもしれない。#name1#が想っている誰かへの、罪悪感。
『ラジオ、流します?』
『...あー、おん』
帰りの車でぼんやりと携帯を眺めていた俺にマネージャーが声を掛けラジオをつける。すぐに車内に響く大倉の笑い声。いつもこの声を聞く瞬間は平和だな、なんて思う。
差出人を確認しただけで未読にしていたメッセージに目を通しながら大倉の声を聞き流していると、あるフレーズで手が止まった。
『ほんとにいるんすかね、ソフレいるとか言う人、聞いたことないなぁ』
マネージャーの言葉に思わず笑った。
『...せやな』
ここに居んねん。お前今ちょっと馬鹿にしてるやろ?しばいたろかほんまに。
“男側からの意見としてはー、”
大倉が言いそうなことは何となくわかる。
“あまり興味がないというかぁ、寂しいから傍に居て欲しい感じなのか、すごくピュアで手を出せずにいるのか...”
...何言うとんねん。俺はどっちも当て嵌らへんわ。興味が無いわけないし、ピュアでもない。意外とドス黒い感情やで。#name1#の心の隙間にこうやって入り込もうとしてんねんから。
...ただ、寂しい、ってのは合ってるんかも。でも一緒に居って欲しいのは、誰でもいいわけちゃうねん。一人でええねん。
『あー、ごめん』
『はい?』
『ここでええわ』
お疲れ様でした、と言ったマネージャーに同じ言葉を返して車を降りた。まだマンションまで距離はあるけれど、早く一人になりたくなったんだから仕方ない。
空を見上げても星一つ見つからない。その上、さっきの大倉の言葉を思い出したから俯いて足を踏み出した。
#name1#がどんな気持ちでいるのかなんて考えなくていい。...考えたって仕方ない。今止めるわけにはいかないんだ。拒絶されない限り、傍に居たい。
恋に痛みは付き物だ。それくらいの痛み、耐えてやる。
強い決意とは裏腹に目頭が熱くなる。ただの強がりだなんて認めるわけにはいかない。雲に覆われた空を見上げて唇を噛み締めた、第五夜。
S.
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