euphoria


6th Night.


...なんで呼んでくれへんのやろ。いつでも呼んでええよ、って言うたやん。
今まで一度だって#name1#から呼ばれたことなんてない。
...俺は必要とされてないのかもしれない。一緒に居たいから居るだけ。そう思っているのは俺だけで、#name1#はそうではないのかもしれない。
どんなに考えてみたってその心はわからない。なんで、...なんてそんな疑問は、この関係には余計なのかもしれない。

...ええやん。それやったら、俺から会いに行く。呼ばれへん言うて悶々としてるより、自分から距離詰める方が早いやんか。
割り切ったらええねん。#name1#がどう思ってても、会いたい気持ちは同じやねんから。


『お疲れー』
『ヤスー、今日終わり?』
『おん、今日はこんだけ』
『終わったら連絡するかも』
『あー、 ...ん、お疲れ』

先に雑誌の取材を終えた俺に声を掛けてきた大倉には申し訳ないけど、今日はもう決めたんだ。

現場から直帰して家でシャワーを浴びながら言葉選び。どうやって#name1#を誘おうか。わざとらしくないように、けれど好意は匂わせたい。駆け引きなんて呼べるもんじゃない。ただ、振り向かせようと必死なだけ。

「もしもし、」
『あ、#name1#ー』
「うん」

1週間ぶりのその声に思わず笑みが溢れる。もっと早く誘えばよかった。意地を張ってもいいことなんてないのだから。

『今から軽く飲み行かへん?』
「この前のとこの近くでしょ?」
『え?』
「さっき忠義から連絡来てね、今お風呂...」
『大倉?...そうなんやぁ...』

...そっちは予想してなかった。俺のところにも大倉からシャワー中に着信があったけれど、まだ掛け直していない。#name1#の都合を優先するつもりだったから。きっと俺が電話に出なかったことで、仲間内の何人かに連絡を入れたんだろう。
...マジか。それはほんま、...あー、そうなんや...。

『ほんなら...出掛けるんや?』
「え? ...一緒じゃないの?」
『うん、今日は夕方までやったし、もう家帰っててんけど』
「そうなんだ...」
『一人で飯食うのもなんかなぁー...思て、...あ、#name1#居るやん、一番近いやん思て。...けど』

未練がましいなぁ。けど、今日こそて決めててんから、簡単に納得でけへんねん。

「...大丈夫...!」
『えぇ?』

急に#name1#が思い立ったように声を上げたから驚いた。

「...あ、大丈夫だから、」
『約束してんねやろ?』
「...今お風呂入っててね、まだ返事...してないから、だから...」

...なんか俺、めっちゃ愛されてんちゃう?優先してくれてんねんで?...いや、押したのは俺やねんけど。それでも、俺を選んでくれてんねんで?

『んは、大倉フラれてるー』
「...........、」
『すっぴん?』
「うん、」
『だったら、』
「...家、でもいいかな...?」
『#name1#がええなら』

電話を切って暗くなった画面を見つめる。そこに映った自分の顔が、何だか幸せそうで恥ずかしくなる。

正直、どこで飯を食うかなんて考えていなかった。俺達が2人だったら、と頭に浮かべるその光景はいつも#name1#の家だから。誰にも邪魔されない、俺にとって一番贅沢な過ごし方であることに間違いない。...だから、理想通り。

心を弾ませながらスーパーに寄って、#name1#の好きそうなつまみやビールを買い揃えた。いつも見てるから、大体わかる。
マンションの下から#name1#の部屋を見上げると、その部屋に明かりが灯っているだけで何だか幸せな気分になってしまう。
足早にエレベーターに乗り込み、そわそわしながら階数表示を眺め、部屋に着くまで何度か深呼吸。
インターホンを鳴らせば、パタパタと#name1#が走ってきた音が聞こえて口元が緩む。ドアを開けたラフな部屋着の#name1#に笑顔を向け、スーパーの袋を見せれば、#name1#がその袋を掴んだ。

「ありがとう」
『あ、そういう意味ちゃうよ』

#name1#の腕を掴んで袋から手を外す。触れたことで握った手の感触を思い出してまた触れたくなる。けれど、今は我慢。

『何飲む?色々買って来たで』

グラスを渡され、それを受け取りながらソファーの下に座って広げたビールやつまみを指差す。

『「 ビール 』」
『...って言うと思た』

...ほら、な。だから言うたやん。いつも見てるからわかる。
驚いたような顔で俺を見た後に照れ臭そうに笑みを浮かべる#name1#が愛しい。

駆け引き、なんてもう頭になくなっていた。話題なんて何でもよかった。ただふたりで共有するこの時間に堪らなく幸せを感じていた。笑いながら俺の肩を叩くその手の温もりがすぐに恋しくなって、隣に座る#name1#の肩に凭れ掛かるように触れる。距離を縮めることよりも、ただふたりで笑っていられることに満足していた。

めっちゃ幸せ。けど正直眠たい。酔うてるなぁ。昨日あんまり寝てへんし。寝てまうの、勿体無い。けど、ベッドの中で早く触れたい気もする。...手、ぐらいしか触られへんけど。

『あ、ちょっとごめん』
「うん」
『あ、大倉やん』

欠伸を噛み殺したところで携帯が鳴った。今日は行けないと連絡はしたはずだったのに。
ボタンを押してすぐに、電話の向こうから明らかに暇を持て余している様子の大倉の声。

『今から来ぇへん?徹平帰ってもうて2人なんやけどぉー』
『そうなん?今からは...』
『ていうか#name1#にも連絡してんけどな、全っ然返事返って来ぇへんねん』

黙ったまま#name1#を見れば、口を開けて目を丸くしたまま俺を見ていた。
返事返すの忘れてた!って顔?
...言わへんよ。言いたくない。知られたくないのとはちゃうねん。

『...そうなんや?行くなら連絡するんちゃう?俺今から行くのしんどいから嫌や』

#name1#から視線を逸らして勝手に知らないフリをした。
...だって、今は俺のもん。いくら大倉でも、今は邪魔せんとってよ。
薄情者、と大倉が責めるから笑った。心の中で謝りながら電話を切る。
...本当に独占欲だけだっただろうか。この前のラジオの大倉の言葉を、少し気にしていたのかもしれない。認めたくはないけれど。

#name1#をちらりと見たら、困惑したような顔をしていたから思わず笑った。
なんで知らんフリしたんや思てんのかな。...言わへんよ。それは今はまだ教えたらへん。

『フラれた上に忘れられるて、最悪やな』
「...すっかり忘れてた...」

俺としては、...ちょっと気分がいい。俺と約束したことで忘れたというのなら、#name1#の頭の中を独占したみたいだから。
...あー、あかん。やっぱり酔うてる。ふわふわ。けど、幸せやからええな。...うん、幸せ。めっちゃ幸せ。

『あのさ』
「...え?」
『泊まってええの?』
「...あ、うん...」
『最初から泊まる気やったけどぉー』

あー、よかった。帰る気は本当になかったけれど、当たり前のように頷いてくれるから嬉しくないわけがない。

『帰れ言わへんよな。...いつもさ』

理由なんて知らなくていい。ふわふわと良い感じに酔っている今、わざわざその理由を知る必要はない。居ることを許されているのだから、他に何もいらない。



「......居て欲しいから」
『俺に?』
「うん」

...え、マジで?本気で言うてんの?

『...それは、なんで...?』
「...........、」
『...俺も、居りたい』
「......章大」

...ほんまに?嘘やん。めっちゃ嬉しい。え、ちょ、待って。ほんま?...ほんなら、もうキスとかしてもええの...?

隣の#name1#に顔を近付けてみるけれど、嫌がる様子はない。#name1#の頭の後ろに手を添えて更に距離を縮める。確認するように#name1#を見れば、俺を見ていたから目を閉じて唇を触れさせた。

「...しょーた、」
『...もっかい、』
「...しょうた」
『.....#name1#、』
「章大」

......え?なに?

『...ん、あ、』

...え?どゆことぉ?...あ、夢?え?...嘘やん、何やそれ。ほんまに夢?... 最悪や...。

『...大丈夫、...起きてるよ、』

ソファーから頭は起こしたけれど、瞼が重い。何より現実に戻りたくない気がして目を開けるのを躊躇った。
肩を軽く揺すられたから仕方なく薄く目を開くと、#name1#が俺を覗き込んでいたからこれまた仕方なく笑顔を向けた。

『...何時...?』
「もうすぐ1時」
『...そぉかぁ...』
「ベッドで寝ないと」
『...うん、...今行く...』

頭はふわふわしているけれど、途轍もなく重たい足。その足で床を踏み締めて立ち上がると寝室へ向かった。重たいのは、酔っているせいだけではない気がする。

あー、もう。ほんまにしたろかな。せっかくキスしたとこやったのに。なんやねん。なんで夢やねん。...くそー...キス、したい...。

ベッドに倒れ込むと、より強くなった#name1#の香りにますますヘコまされる。それでも瞼は勝手に閉じて、身体が睡眠の準備に入ったように重くなる。

...キス、したい。...ほんまはセックスだってしたい。...あー、なんなん。もう。本気でへこむわ。
...#name1#、はよ来ぇへんかなぁ...、はよ来てくれんと寝てまうやん...。

「...章大」

...あ、来た。
辛うじて薄く開いた目で#name1#を見る。

「アラームかけた?朝、大丈夫?」
『んー...』

携帯を差し出されて、反対の手で壁側を指差す#name1#をぼんやりと見つめた。

「奥、行っていいよ」

言われるままに這うように壁側へ移動して、#name1#の持つ携帯に手を伸ばした。何だか力が入らない。瞼が閉じると共に、携帯を掴んだ腕が#name1#の枕に倒れた。

「...手、どけて...?」

その声にまた目を開ければ、#name1#が俺を見ながらベッドに入るのを躊躇っていたから思わず笑った。

『...ふふ、腕枕、するー?』
「...いいからぁ、どけて」

目を閉じていたからか無理矢理腕を掴んで退けられた。腕に触れた#name1#の手のせいでさっきの夢の中のリアルな温もりがふわりと蘇る。

『なんやねん、』

思わず口に出てしまっていた。
隣に入って来た気配を感じて#name1#の方を向いた。いつもよりも#name1#に近い距離で落ち着いてしまったのは、さっきの夢の余韻のせい。

『...明日、起こして...』
「え?」
『何時でもええわ、』
「仕事は、」
『...平気...』

午後からやし、と言ったつもりが、声には出ていなかったみたいだ。近くにある体温を求めて体を動かすと、#name1#の肩辺りに額が触れたから擦り寄るようにくっついた。

...こんくらいしたってええやろ?キス、するわけちゃうねんから。...したいけど。ほんまは、めっちゃしたいねんけど。
...何だかんだ言いながら隣に寝て触れてしまえば結局幸せなんだ。隣にある体温を感じながら、今この時の幸せを噛み締めて思わず愛しいその手に指を絡めた、第六夜。




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