euphoria


11th Night.A


「......行かないで、...」

驚く程素直に出て来た私の言葉に動きを止めた章大の手の中のTシャツを、訴えるようにもう一度引いた。
ちらりと見た章大の目が、私の頬を伝った涙を追ったから目を逸らす。

『......ごめん』

章大の呟くような言葉に唇を噛み締めた。

『...やっぱ、無理やわ、』

ますます小さくなった章大の声に息を詰めると、章大が携帯をソファーへと放った。それを見て顔を上げれば、章大の体がこっちに向いて手が伸ばされた。私の背中に辿り着いた手に引き寄せられて抱き締められると、裸の章大の首筋に顔を押し付けられて胸が高鳴る。力を込めて締め付けられて苦しい。くっついた胸から感じるいつにも増して早い章大の鼓動のせいで、余計に胸が苦しくなった。感情が昂って嗚咽が漏れてしまいそう。

章大が体を少し離して私を覗き込んだ。目が合えば頭を撫でられて章大の顔が近付く。
何も聞こえない。自分の鼓動だけが体に響いて、息が苦しい。
至近距離で躊躇ったように止まった章大が、伺うように私を見つめてから唇が重なった。

離れた唇が震える。章大の顔を見ることが出来ずにいると、角度を変えて再び唇が触れる。
頭を支える手が優しくて、私を抱き締める腕も唇も優しくて、幸せ過ぎるその感覚に思考が停止した。これが現実なのかどうか、もうわからない。

『...言われへんようになってもうたな』

...それは私達の関係のことを指しているのだろうか。
合わせられた額も自分の頬も熱い。目の前にあるその顔を見ることが出来ず、章大の胸元に視線を落とした。
ゆっくり背中の手が緩められると、背中に再び手が添えられて軽く押され、寝室へ向かう。酔っているせいか緊張のせいか足がふらつく。

捲くられた布団の中へと促され力なくベッドへ倒れ込むと、ベッドの中で横向きのまま再び抱き締められる。章大の鼓動が早い。その意味を知りたくて章大を見上げれば、目が合う前に唇を塞がれて啄むように何度もキスを落とされる。
少し長めに唇が合わせられるとそのまま肩を押されて仰向けにされ、章大が私の体を跨いでリップ音を立てて唇が離れた。

『...なぁ、#name1#...』

髪を撫でられて章大を見れば、私を見つめるからたまらなく心臓が煩く主張する。

『...してまおか』

ドキリとした。章大の細められた目は私を優しく見つめていて、それなのにどこか苦しそうで胸が締め付けられる。

『もっと後ろめたくなるようなこと、...してまおか』

...わからない。これでいいのかどうか、私にわかるわけがない。何も考えられない。
でも、きっとこれしかない。今の私が章大を繋ぎ止める方法は、これしか見つからない。

小さく頷くと、章大が私の髪をくしゃりと掴んですぐに唇を塞がれた。伺うように唇に舌が這わされたから薄く唇を開けば、章大の舌が差し込まれてされるがままに舌を絡められる。合わせられた唇に隙間があく度に漏れる章大の吐息がたまらなく愛しさを募らせた。

離れた唇が私の首筋にキスを落とし、舌が這わされて思わず章大の腰に触れた。すると私のパーカーのファスナーに手が掛けられ、ゆっくりと下ろしながら胸元にキスを落とした。

素肌に滑らされる章大の手が優しくて心地よくて、少し荒々しく私を高める唇に翻弄されて息が上がる。
こんな章大、見たことない。テレビでも、プライベートでだって見たことのない章大が私を見つめるから、それだけで気持ちが昂る。

ゆっくりと時間を掛けて私を追い詰めるその指が優しくて、時折私を伺いながら上がる口端にドキリとさせられる。色気を含んだ艶のある表情で私を見つめる章大の目の中には、私だけが映っていた。
今この人は、紛れもなく私だけのもの。

仰け反った体を高めていた章大の指が、リビングから聞こえる着信音でピタリと止まった。すると、私の中にあった指がするりと引き抜かれて章大が私にキスを落とした。

一瞬過ぎった不安を取り去るかのように私を見つめた章大が、私の足の間に体を割り込ませて胸をぴたりと私の胸に密着させ囁くように言った。

『...入るで?』

着信音が止んだ。
今までの刺激と緊張のせいで呼吸が荒い。若干震えたその唇に章大がもう一度キスを落とした。私を見つめてから再び唇が触れて舌を絡めながら章大のそこが私の入口に触れる。ピクリと反応してしまった腰を撫でられ章大が体を起こすと、私を見つめながら先端を私の中へとゆっくり埋めた。ひくりと疼いたそこに、章大が私の腰を引き寄せながら息を詰めて埋め込んで行く。
奥まで腰を進めて、章大が吐き出した吐息と共に小さく声が漏れたから胸がきゅっと甘く締め付けられた。

ゆっくりとした律動が始まると、相手が章大だと思うだけで快感が増した。すぐにシーツを握り締めると、ベッドに付かれた章大の手を指が掠めて、その手を取られた。恋人がするように指を絡めてその手を引き寄せられ、より深く繋がって吐息が漏れる。

次第に早まる動きに思わず声を小さく漏らすと、私を見つめて微笑む章大と目が合った。目を細めて優しい顔で私を見るから目が離せない。この顔をずっと忘れないように焼き付けておきたい。

奥にぐっと押し付けられて章大の手を強く握り声を上げると、私の奥で動きを止めた章大がひくりと大きく膨らんだように感じた。
体を倒してキスをすると、舌を絡めながらまた律動が始まる。首の下から回った手で肩を抱かれ、反対の手は私の髪をくしゃくしゃと撫でる。
味わうように緩やかな動きで私の中を刺激するから、時折ぴくりと体が反応する。それが恥ずかしくて目を閉じれば律動が早められた。

『...#name1#、っ...』

呼ばれて目を開けるけれど、章大の口から出るのは少し荒くなった吐息だけ。
私を見つめる顔が苦しそうに見えるのは快感のせいだろうか。その瞳が揺れているように見えるのは、私の目に溜まった涙のせいだろうか。
下唇を噛み締めた章大の首に思わず腕を回した。

「...章大...っ、」

引き寄せた章大の首筋に顔を埋めると、動きを止めた章大のそこが私の中を押し広げるように質量を増した。抱かれた腕に力が込められ、髪をくしゃりと掴まれて急に激しい律動が始まった。

声も出せない程に奥歯を噛み締め快感に耐える。耳元の荒くなった吐息も、時折耐えるように短く止められる呼吸も、そこに混じる小さく漏れる声も、首筋から背中にじわりと滲んだ汗も、全てが愛しくてたまらない。

『...#name1#っ、』

ただ、幸せだった。この瞬間は、幸せ以外に何もなかった。零れた涙の意味なんて知る由もない。

少し体を離した章大から腕が滑り落ちた。私を見つめるその快感に歪む顔を見ながら筋肉が強ばるのを感じる。震える手で、肩を抱く章大の手を掴むと、髪にあった反対の手がしっかりと私の手を握った。びくりと体が跳ねて章大の手を強く握り締める。それでも止まない章大の律動のせいで息が詰まるように苦しい。何度か繰り返し奥にぶつけてから章大が出て行って、震えるような呼吸と共に私の下腹部に欲を吐き出した。

私の上に静かに倒れ込んだ章大が首筋に顔を埋めると、そこにキスを落として控えめに吸い上げた。視界に映る章大の髪をぼんやりと見ていると、離れた唇が再び首筋に寄せられて、今度は少し強めに皮膚を吸い上げた。
顔を上げた章大と目が合うと、章大が口の端を持ち上げるように笑う。

『...痕、ついてもうた』

まだ整わない呼吸でそう言って、今度はちゃんと笑った。
...いいんだよ。嬉しいよ。
言えたらいいのに出て来ない。どんな感情で痕を残したかなんて私にはわからないけれど、私とセックスしたことの証を残してくれたことに感謝した。

体が重い。瞼も重くて、視界がふわふわと揺れる。
私の汚れた体を拭いながら、章大が頭をふわりと撫でた。

『おやすみ』

章大の微笑んだ顔を見て目を閉じる。すぐに腕に熱いくらいの体温を感じて、横から抱き締められた。

これが夢だったのか現実だったのか。
目に焼き付いている、上から私を見下ろしながら微笑んだ章大を瞼の裏に浮かべて、この幸せな気分が永遠に続くようにと願いながら眠りに落ちた、第十一夜。



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