euphoria


胸を刺す棘の痛み


いつの間にか眠っていた。
目を覚ますと、開けっ放しのカーテンから暗い部屋の中に差し込む月明かり。
テーブルの上の携帯を見つめて、溜息をついた。きっとヤスからメッセージが届いている。いつも約束の前の日は必ず連絡をくれるから。

ベッドから降り、思い足を引きずるように携帯が置かれたテーブルへと移動する。テーブルの前に座ると、手が少し震えていた。胸が痛い。
目を閉じて深呼吸をひとつしてから携帯を開く。やっぱり、来ていた。

ヤスはどうして私と会うんだろう。
私をどう思ってるんだろう。
あの女の子は彼女なんだろうか。
彼女が、出来たんだろうか。

聞きたいことは沢山あるはずなのに、恋愛の話を持ち掛ける決意は、もうすでに鈍り始めていた。
明日の時間と場所を確認するだけの短いヤスからのメッセージに返信することなく携帯をベッドへ投げつけ、膝を抱えた。
もう何も、考えたくなどなかった。



講義中、隣りに座る沙紀がこっちを見ていたから首を傾げる。

『なんかあったの?なーんか今日...』
「...目、腫れてる...?」
『んーん。元気ないかなぁって思っただけ』
「そう、かな...」
『大丈夫!いつも通り可愛いよ!自分が思ってるより周りは気にしないよ!』

沙紀は何も聞かずにそう言って笑ってくれたから、少しだけ元気が出た。

待ち合わせに向かう電車の中、何度も鏡を見た。朝より腫れは引いたものの、浮腫みがまだ少し残る瞼が気になってしょうがない。

すると突然、電車が停止し、遅れが出るというアナウンスが入った。それを聞いて少しだけほっとしてしまった自分に気付かない振りをして、ヤスに連絡しようと携帯を取り出した。けれど、昨夜放ったらかしにしていた携帯は充電が切れていた。


20分程遅れて駅に着いた。連絡もなしに遅れて、ヤスは待っていてくれてるだろうか。不安が過ぎったけれど、待ち合わせ場所にヤスの姿があったから安心した。しゃがみ込んで携帯をいじっているヤスが目に入る。話し掛けようとすると、私の中を一気に緊張が駆け巡った。
胸に手を当て、短く息を吐いてから足を踏み出し、声を掛けた。




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