心に灯る小さな灯火
「...ヤス、ごめん」
バッと顔を上げたヤスと目が合うと、ヤスは立ち上がり突然私の腕を掴んだ。
『っお前何しとんねん!』
驚いて、戸惑って言葉もなくただヤスを見つめると、目を閉じたヤスが溜息をついて言った。
『遅れるならなんで連絡せぇへんねん。電話も繋がらへんし。...心配するやんか...』
心配...してくれたんだ。凍ったように冷たかった心が、少し温かくなる。
嬉しかった。男の人にこんな事を言われたのは初めてだ。
「...ごめん。電車遅れたんだけど、充電、切れちゃって、」
『...充電くらいしとけや、』
不貞腐れたように私の腕を離して歩き出したヤスは、私に背を向けたまま、行くで、と言った。
ヤスの背中に「ごめん、」と謝った。少し振り向いて横目で私を見たヤスは、笑顔こそないものの『...怒ってへん』と言った。
そんな風にされたら期待してしまう。私だけに優しいんじゃないかと、勘違いしてしまう。もっと、好きになってしまう。
ヤスの案内してくれた店に着いて、個室に入り座る。
『めっちゃ腹減ったー!』
大きな声で言ったヤスは、いつものヤスだった。それに少しほっとした。
メニューに目を落として「ヤスのオススメは?」と聞いたけれど、返事がないからヤスを見た。ヤスは私の顔を見ていた。
「...どしたの、」
『...#name1#、なんかあったん?』
ドキッとした。あんなに目の腫れを気にしていたのに、さっきの驚きと嬉しさで忘れてしまっていたから。
「なんもないよ、なんで...?」
『ん、いや、ええねん。...あ、俺のオススメはな、』
ヤスはこういうとこに変に敏感で困る。全て見透かされているような気がしてしまう。
『んでな、丸が見つかって怒られてん!』
「丸ちゃん間が悪い」
『なーんか丸はどんくさいねんなぁ』
「どんくささで言ったらヤスも変わんないじゃん」
『んなことないわ!』
話は、普通に出来ていると思う。
笑えてると思う。
それなのに、さっきから話が途切れる度にヤスがチラ、と私を見ているから、昨日の話を切り出されるのかもしれないとドキドキしてしまう。
“ 彼女が出来た ”
報告されるその時のことを考えてみたけれど、まだ返す言葉が見つかっていない。私はどんな言葉を返したらいいんだろう。
“おめでとう”...なんて言えるんだろうか。
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