狡さは思い遣り故に
何か言い難いことがあるのか、口を噤んだままの丸ちゃんに恐る恐る問いかける。
「...丸ちゃん、?」
『...俺な、今...狡い事しようとしてんねん』
意味がわからなくて黙って丸ちゃんの先の言葉を待っていると、苦笑いをした丸ちゃんと目が合った。こんなぎこちない笑い方をする丸ちゃんを見たのは初めてで、不安で心配になる。
『ヤスがな、最近...おかしいねん』
その名前を聞いてドクリと心臓が跳ねた気がした。早くなる心臓の音でますます動揺する。
『二日間大学休んでてん。“しんどいから休んだだけやー”言うててんけど、明らかに荒れてんねん。どうしたん?言うても“なんもあらへんー”言うねん』
体調でも悪いんだろうか。心配で堪らなくなる。そして丸ちゃんの思い詰めたような表情に、ますます不安を煽られる。
『けどヤスに聞かれへんから#name1#ちゃんに聞くとか、ほんま狡いやんなぁ、俺』
「...そんなことないよ」
『でも心配やねん、』
「...うん、」
『最近#name1#ちゃんとよう遊んどったし、なんか知ってんちゃうかって...』
「でも、私はわかんない...」
あの時の話をするのは、ヤスと仲の良い丸ちゃんだからこそ抵抗があった。口を開けないでいると、丸ちゃんは私を伺うように上目遣いでチラと私を見てから、言いにくそうに話した。
『...この前な、ヤスと電話してん。そしたら#name1#ちゃんとおる言うからすぐ切ってさ、そしたら次の日大学来うへんし、携帯も繋がらへんし...。大学来たと思ったら何もないばっかりやから気になってしゃあないねん...』
あの日のことを、思い返していた。
電話って、まさか...。
「...それって、火曜日?」
『そうやで。会ってたやろ?#name1#ちゃんトイレや言うとったから電話自体知らんかもしれんけど』
「...知ってる、」
『え、ほんま?聞いてたん?』
返答に困って口を噤んだ。曖昧に笑ってみせるけれど、丸ちゃんの目が縋るように私を見つめていて困惑する。
『...あの後、なんかあったん...?』
「丸ちゃん...あの時、どんな話してた...?」
『え、どんなって...大した話ちゃうけど...』
「.......好き、とか...そんな話...?」
丸くなった丸ちゃんの目が私を見つめると、その目が泳いで視線を落とした。
『ほんまに、聞いてたんや?』
「...聞いてたっていうか、」
『じゃあ...』
言いかけて丸ちゃんが口を噤んだ。
何を言おうとしたのか気になったけど、あの電話が“彼女”じゃなかったことに、少なからず安堵している自分がいた。
「丸ちゃん、」
『いや、なんか、その...』
「ヤスってさ、付き合ってる子、いる?」
『え...おらへん!おらへんよ!』
「......そっか、」
安堵の溜息をついてごちゃごちゃした頭で必死に考える。
あの言葉は、どういう意味だったんだろう。考えてみるけど、全然わからない。胸の中と目の奥が、焼けるように熱い。我慢していても、目元にじわりと涙が滲んだ。
- 17 -
*前次#
ページ: