自分で付けた傷さえも
卒業式の間、ずっとヤスを斜め後ろから見つめていた。もうこうして顔を見ることも、きっと出来なくなるはずだから。
卒業式の帰り、ヤスを探した。もう一度話したかったから。これが最後だとしても。
やっと見つけたヤスは、一年後輩の可愛いと評判の女の子と二人で写真を撮っていた。
ヤスの制服のボタンは、一つもない。
欲しかったなぁ...なんてやけに冷静に思っていた。
立ち尽くして見ていた私にヤスが気付いた。目が合っている。
早く行かなきゃ。足が動かない。
早く話さなきゃ。声が出ない。どうしよう。
『せんぱーい?』
女の子がヤスの腕に絡みつく。
ヤスは私から目を逸らした。
私は苦しくて、痛くて、また逃げてしまった。自分だけを守った、あの時と同じように。
もう、全てが終わったんだと思った。
高校は別々だから会うことなんてほとんどない。家が近いからって、会えるわけではなかった。
それでもヤスを何回か見かけたことがある。相変わらず人気者のヤスは、いつも中心にいた。一目見ただけでそれがわかった。
私の知らない仲間と、女の子と一緒にいる、私の知らないヤス。
声を掛けることなんて出来なかった。
もうあの頃のヤスなんていない。
みんな変わっていくん。変われないのは、私だけ。いつまでもヤスのことばかり考えていたらだめなんだ。
高校、短大でそれなりに恋愛はした。でもそれは恋愛と呼んでいいものではなったのかもしれない。違う人を想いながらの偽物の恋愛だったのだから。
同窓会への出席を迷っていた。
成人式にだけ出席するにしても、ヤスに会うかもしれない。
会いたい。でも怖い。会いたくない。
そう考えると、成人式への出席さえも躊躇ってしまう。
同窓会という、ごく狭い空間に放り込まれたときの息苦しさを想像したらとてつもなく怖かった。
会いたくない。...やっぱり、会いたい。顔がみたい。けれど、すごく怖い。
矛盾する想いが駆け巡って、決めかねていた。
あれから5年経った今、ヤスはどんな目で私を見るのだろう。
もしも今、ヤスに拒絶されてしまったとしたら、私は。
悩んでいたところに、中学の同級生の佑香からメッセージが届いた。成人式に一緒に行こうと書かれたメッセージだった。
友人と一緒なら少しだけ気が楽だと思った。逃げ場があるような、そんな気がした。
同窓会の返信葉書にペンを走らせながら気付く。きっと私は、誰かに背中を押して欲しかったんだ。たった二言三言の誘い文句で、すぐに決心出来たのだから。
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