幼過ぎた私たち
『...#name1#っ!』
突然後方から私を呼び止める声がした。
驚いて振り向くと、そこには息を切らし、ネクタイを緩めながらこちらを見るヤスがいた。
なんでヤスが...。あまりに突然のことに声が出ない。この時の私はきっとひどくブサイクな顔をしていたと思う。
ヤスが、私を見ている。やっと私を見てくれた。
『二次会、行かへんねや?』
黙っている私にヤスが問いける。それに小さく頷くと、ヤスが視線を逸らして鼻を啜り俯いた。
『...少しだけ時間くれへん?ほんまに少しでええねんけど』
信じられない。ただただ動揺していた。言葉が出なくて、ただ必死に頷いた。
頭が真っ白だった。
歩き出したヤスの後ろを、離れてしまわないように背中を見つめただただついて行く。
あの頃よりも広く逞しくなったその背中に、胸が締め付けられた。
少しだけ振り返り、私が居るのを確認したヤスが話し出す。
『#name1#、変わったなぁ。誰かわからんかった』
さっき目を合わせてくれなかったヤスとは思えないほど自然な話し方に、少し戸惑っていた。緊張で震えそうな声を必死で隠して平静を装う。
「...そうかな...ヤスはあんまり変わってないね」
『マジで?俺男前になった思うけど』
そう言って笑うヤスは、あの頃みたいなヤスだった。
ヤスと、話が出来てる。
その事実だけで、油断したら涙が溢れてしまいそうで、空を仰ぐ。
早く、謝らなくてはいけないのに。何やってるの、私。
緊張し過ぎて上手く声が出せない。
何度も深呼吸してバッグを持つ手に力が籠る。
『あんな、あん時のことやけど...』
あの時。その言葉に、胸が痛くなるほどの動揺を覚え、思わず立ち止まる。
そんな私に気付いたヤスは、俯き目を合わせずにこう言った。
『なんか...ごめん』
思ってもみなかった謝罪に驚いて顔を上げると、苦い顔をして笑うヤスの目が、チラと私を見た。
『俺な、拗ねててん。#name1#に言われたこと、悔しくて。ほんっまにガキやろ?』
ヤスの顔から目が離せなかった。
バツが悪そうに俯くヤスに何か言わなければと思っているのに、頭も口も動いてはくれない。
そんな私の様子を気にすることもなく、ヤスが言葉を続ける。
『俺ら、仲良かったやん。やのに俺のこと嫌いなんかー!とか思てさ、ただ拗ねててん。#name1#はそんな意味で言うたんちゃうてわかっててんけど。なんや意地張りすぎて、#name1#と喋られへんくなってもうて、ずっと後悔してた』
今言わなくてどうするの、私。
「...私...、」
振り絞った声は、自分でも驚くほど消えそうに小さく掠れていた。
『うん?』
それでもヤスはあまりにも優しい顔をしてその声を拾ってくれた。急かすこともなく、黙って私の言葉を待っているヤスに胸が甘く締め付けられる。
「謝らなきゃいけないのは、私の方、だよ。ごめん」
振り絞るような告白に、ヤスは目を丸くすると、すぐに笑顔を浮かべた。
『なんやぁ。俺ら、お互い気にしてたんやなぁ』
笑いながらヤスが言うから、泣いてしまいそうだった。
「今日#name1#に会った時から、ずっと緊張しててん!全然顔見れへんかった』
...そうだったんだ。
同じ気持ちでいてくれたんだ。
すごく嬉しかったから、少しだけ笑えるようになった。
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